吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2021-01-01から1年間の記事一覧

スパイの妻<劇場版>

2020年11月に劇場鑑賞。 黒沢清監督の作品は個人的には当たり外れの差が激しいと思っている。近年は外れが多くて、本作も途中までは「また外れたかぁ~」と思っていたのだが、最後にあっと驚く展開になったので、そこまでの外れ感が帳消しになった。 黒沢清…

リンドグレーン

「やかまし村の子どもたち」の原作者、アストリッド・リンドグレーンの若き日を描いた伝記映画。実はわたしはリンドグレーンの出世作の「長くつ下のピッピ」を読んだことがない。そもそも子どものころに絵本をほとんど読んでいないし、児童文学もあまり好き…

ウォーム・ボディーズ

異色のゾンビもの。 どういう経過か知らないが、世の中にゾンビ病が蔓延して8年後という設定になっている。もはや世界中に生き乗った人々はわずかにNYに居るのみ。ていう設定からしてもう全然意味不明なんですけど。なんでガソリンあるんですか。なんで電気…

昔々、アナトリアで

オープニングクレジットが終わったあとの巻頭ロングショットの美しさには息を飲む。薄暮のアナトリアの丘陵地帯。画面のど真ん中に少し寂しそうな、それでいて存在感のある木が1本。くねくねと曲がった道をライトを輝かせながら走ってくるのが3台の自動車で…

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

子どもの頃に大好きだった「若草物語」。わたしはもちろん自分自身を次女・ジョーに重ねて読んでいた。男勝りで活発で気の短いジョー、文才があって男に頼りたくないと思っている彼女がわたしの目指すべき憧れの存在に思えたものだ。 だから、50年ぶりに本作…

9人の翻訳家 囚われたベストセラー

プルースト『失われた時を求めて』、これが本作の最大のギミックではなかろうか。実はこの世界史に残る名作といわれている小説を私は読んでいない。同時にこの映画で言及されているジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』をわたしは邦訳1巻だけ読んで途中放棄し…

アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン

1972年に一度は劇場公開映画として(映像内では「テレビ放送用」と語られている)シドニー・ポラックによって撮影されたものの、技術的な問題が発生して完成しなかったライブ映像が、ようやく映画として完成された、というもの。よくぞこのお蔵入りフィルム…

中島みゆき縛りで映画ができるとは! まるで「マンマ・ミーア!」みたいではないか。しかしよく考えてみたら、中島みゆきの曲にはドラマがあるし人生が語られているし哲学や思想が宿っているのだから、十分物語を作ることは可能なのだ。 してこの物語は、北…

スーパーノヴァ

あっという間に公開が終了してしまった残念作。渋くてよかったのに。 「スーパーノヴァ」は超新星のこと。 役者二人の演技を見る映画だから、ストーリーにはあまり関心がなかったのだが、それでもちょっとどうかと思えるほどに情緒的な内容だ。特にラストシ…

花束みたいな恋をした

恋の始まりから終わりまでの5年間を丁寧に、かつテンポよく描いていく青春物語。見ていて恥ずかしくなるような場面も多いが、なかなか小気味よかった。「500日のサマー」にも似ている。 別れた二人が偶然再会してしまう冒頭、二人の出会いの時の5年前に時計…

罪の声

グリコ森永事件を基にしたフィクション。緊迫感に満ちて、なかなかよくできたサスペンスだ。これは原作がしっかり描けているからだろう。 星野源は関西出身でもないのにかなり上手に関西弁を操っているし、小栗旬はいかにも人の良い文屋らしい演技で、先日見…

カミーユ

劇場未公開作。 戦場カメラマンだった若きフランス人女性の生きざまを追う。 巻頭、アフリカ中部の草原が写る。トラックの荷台に積まれた「荷物」を検問のフランス人兵士が見る。「5人の遺体を発見した。その中に白人の女性が」。そして物語は過去にさかのぼ…

ファーザー

個人的にはこれ以上ないぐらいに身につまされた作品だ。認知症の人間の感覚をこんなふうに描けるとは、驚く以外にはない。あまりにも素晴らしい脚本に感嘆して、映画を見ている途中で「これはすごい、この脚本はきっとアカデミー賞を獲っただろう」と確信し…

顔たち、ところどころ

この映画の魅力を堪能するためには大きなスクリーンで見るしかない。残念ながらわたしは自宅のテレビモニターで鑑賞したのだが、それでもiPadで見るより遙かに感動することができたのだから、やっぱり画面は大きいに限る。 ゴダールと同世代の女性監督である…

へんしんっ!

バリアフリー上映ならぬ、「オープン上映」と名付けられた方法で公開されるこのドキュメンタリーには、視覚障がい者のための音声ガイドと、聴覚障がい者のための字幕が付いている。映画の冒頭しばらくは「え、何この映画?」と驚いてしまったが、すぐにその…

のさりの島

人を傷つける嘘は悪いものだし、場合によっては犯罪に結びつくこともあるだろう。だが、人の心を温める嘘なら許されるかもしれない。むしろ、嘘を共有することによって人が変わることもある、そんな微かな光がほの見える物語。 熊本県天草地方の町に一人の若…

グリーンランド ―地球最後の2日間―

こういう大作はやはり大きなスクリーンで観たいもの。大迫力で面白かった。 本作はこれまでさんざん描かれてきた地球滅亡物語の1バージョン。巨大彗星が衝突して地球が壊滅に近づく今、アメリカ政府は大厄災後に必要となるエリートたちを避難させるべく、選…

このすばらしきせかい

沖田修一監督の初長編だそうな。長編といいながら72分しかないのでサクサク進む話は小気味よい。と言いたいところだが、これまた引きこもりの高校生と自殺未遂の叔父さんというダメ人間セットの話なので、ちょっとうんざり。最近ダメ人間の映画を続けて見て…

わたしたちに許された特別な時間の終わり

アーティストというのは食べられるようになるまで時間がかかる。音楽家なら結果が出るまでまだ短い時間かもしれないが、映画監督なんて、初作品が40歳代とかふつうだし。そうなると、そこまでどうやって食べてたんですか? という疑問が沸く。 このドキュメ…

きみが死んだあとで

巻頭、学生服姿の山崎博昭の写真パネルが大写しになる。羽田空港へと続く弁天橋の上でその大きなパネルを持っているのはこの映画の監督なのだが、そんな説明はない。雨の中を立ち尽くす学生服姿の監督は自分の上半身と山崎博昭の写真を重ねている。その写真…

グンダーマン 優しき裏切り者の歌

”東ドイツのボブ・ディラン”ともてはやされた労働者歌手ゲアハルト・グンダーマンが実はシュタージのスパイだった、という衝撃の告白を行った実話を描いた物語。と聞くと、「善き人のためのソナタ」(2006年)を想起させる。かの作品と異なりこちらは実話で…

ハイゼ家 百年

「全ての歴史は、個人に宿る」という惹句に納得の3時間38分である。祖父から始まり、父、本人、と続くハイゼ家100年間の歴史を、残された手紙、日記、写真からたどる。トーマス・ハイゼ監督自らがそれを淡々と読みあげていくだけの映画なのに、目が離せない…

レ・ミゼラブル

2020年4月に劇場鑑賞。2021年2月25日DVDで再見。 映画はサッカー・ワールドカップでのフランスの優勝を熱狂的に祝う人々がびっしりと街頭を埋める、圧巻のシャンゼリゼ通りから始まる。狂喜乱舞する人々の顔、顔、顔。アフリカ出身者や西アジアからの移民が…

ノマドランド

緊急事態宣言が出て映画館が休業する前に見た。劇場用パンフレットを作成していないとな。最近こういうことが増えた。「テスラ」みたいな地味な作品ならともかく、いちおう本作はアカデミー賞候補作ですぞ。残念きわまりない。で、やっぱり獲ったじゃないの…

クロール -凶暴領域-

ブレイク・ライブリーが超絶強い女を演じた「ロスト・バケーション」と基本構造が同じ映画。ブレイク・ライヴリーに比べてヒロインがかなり地味なのではあるが、鮫の襲撃とちがって鰐の襲撃というのもなかなかに恐ろしい。 フロリダ地方にハリケーンがやって…

男と女 人生最良の日々

50年の時を超える続編! なんというおしゃれな映画だろう。なんという心を揺さぶる物語だろう。愛し合った記憶、二度と戻らない時間、もはや死以外に未来はない二人に再び愛の灯を微かに、しかし間違いなくともしていくその邂逅はなんという幸福感に満ちてい…

ジョジョ・ラビット

ウサギも殺せない臆病な少年ジョジョは周囲の少年たちから「ジョジョ・ラビット」と囃されていた。そんな心優しいジョジョはヒトラーに心酔し、密かに総統を心の友として暮らす日々を送っていた。 父が出征し、美しい母と二人で暮らすジョジョにとってはヒト…

TENET テネット

去年の10月11日、3年ぶりに帰国した息子Y太郎と一緒に映画館で鑑賞。もちろんIMAXで見たけど、意外に画面の大きさを実感することがなかった。とはいえ、音響の迫力はお尻から響いてくる感じで体感できた。 物語はノーラン監督が大好きな、時間軸いじりたお…

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~

95%の視力を失いながらもその事実を隠して五つ星ホテルの研修生になった若者の実話をもとに作られた。これが実話というのはただ驚くしかない。 スリランカ人の父とドイツ人の母の間に生まれたサリヤは15歳の頃に視力をほとんど失ってしまう。しかし彼はホ…

靴ひも

イスラエルはエルサレムを舞台とする、老いた父と発達障害のある息子とのユーモラスで切ない物語。 主人公ガディは38歳にして母親に急死された。母の葬儀でたどたどしく追悼の祈りを読み、泣き崩れるガディの姿が冒頭で印象的に描かれる。そして、30年前…