1972年に一度は劇場公開映画として(映像内では「テレビ放送用」と語られている)シドニー・ポラックによって撮影されたものの、技術的な問題が発生して完成しなかったライブ映像が、ようやく映画として完成された、というもの。よくぞこのお蔵入りフィルムが残っていたものだ。それに名監督ポラックが撮っていたとは驚く。
画像が汚いし見苦しいところも多いのだが、アレサ・フランクリンの魅力は存分に伝わる。聴衆が共にハイになり、バックコーラスが興奮して立ち上がり、拳を突き上げ、踊る。ゴスペルとはこのように ”人々をどこかに連れていく” ものなのだ。その迫力に酔いしれる映画だ。
もともとわたしはアレサ・フランクリンのファンというわけではないし、それどころかほとんど何も知らないのであった。にもかかわらず見に行ったのは、けっこう評判がよかったから。どんな映画なのかは事前情報無しだったので、50年前の教会でのライブ記録だったとは予想外だった。この映画を見ればゴスペルという音楽ジャンルが黒人教会でどれほど大きな役割を果たしたかが実感できる。聖歌隊からはホイットニー・ヒューストンなど優れた歌手が生まれていることを思い出す。
アレサはゴスペルからソウルミュージックへと転向し、ソウルの女王と呼ばれた。この映画の当時は29歳、すでにいくつもヒットを飛ばしていた大スターだった。ミック・ジャガーも見に来ていた2晩に及ぶライブは、彼女の最高傑作と呼ばれている。ここで歌われた曲は教会音楽であり、信仰を歌い上げるものだが、信仰心のないわたしも大いに感動した。アレサはゴスペルからソウルに転向したと書いたが、その二つは明確な線引きは困難だし、アレサはソウルとゴスペルの区別なく魂の音楽を歌い上げている。
教会には彼女の実父も聴衆として来席している。アレサに音楽の手ほどきをしたのがこの父であり、ゴスペル歌手であった母の血を引いたのだろう、幼いころからアレサの歌唱力は群を抜いていたという。父は有名な牧師であり、黒人解放運動の活動家であった。この映画でも突然スピーチを依頼されてアレサのことを語っている。
映画の魅力はアレサの歌声だけではなく、彼女の師であるジェームズ・クリーブランドのピアノと低く響く歌声もまた堪能できることで一層高まる。これはもう、見るしかないでしょ!
2018
AMAZING GRACE
アメリカ Color 91分
製作:アラン・エリオット
撮影:シドニー・ポラック
出演:アレサ・フランクリン