吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2002-01-01から1年間の記事一覧

雨あがる

この映画をフェミニズムの視点から批判するのはたやすい。マルクス主義の視点から批判するのはもっと容易い。時代遅れだとか、わざとらしいとか、いくらでも悪口は言える。 でも言いたくない。 なぜなら、どこでロケをしたのだろうと訝るぐらいの美しい風景…

「キッズアーオールライト」

良識ある大人が眉をひそめながら読むような、残虐で破天荒な物語だ。目を覆うような残酷なシーンにファンタジーのフィルターをかけて多少緩和しようとしたきらいがあるとはいえ、気持ちのいい話ではない。だが、文体に勢いがあるものだから、ついつい読んで…

「リレキショ」

第39回文藝賞受賞作。「キッズアーオールライト」と2作同時受賞となったが、「リレキショ」は癒し系、「オールライト」はバイオレンス系、とまったく作風が異なる。しかしどちらも若者の、世界とのつながりの実感のなさを描いている点では素材は同じと言える…

からくりからくさ

「からくさ」をキイワードに、日常微細な世界から読者を時間と空間の広がりの中へ連れだしてくれる佳作。 唐草そのものが、歴史と空間の無限のつながりを象徴するものであるが、この意匠を巧みに使って、作家は読者を自在に不思議な思いの「場」へと誘い出す…

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

ほんとうに寝ながら学べるのかどうか試してみたけど、それはさすがに無理なようだ。しかし、充分、通勤電車の中で立ち読みに堪える本だ。 ここまでコンパクトにまとめてもらえると、すっかりわかった気になるから不思議。「おもしろい!」と思いながらすいす…

生命観を問いなおす

森岡氏は生命倫理学の研究者なのだが、この生命倫理学という言葉から連想するような倫理学者とはちょっと違うようだ。彼は「生命学」という学問を提唱していて、「脳死は人の死かどうか」「臓器移植は是か非か」という問題を、単なる技術論や死生観を超えた…

「海辺のカフカ」

随分昔に村上春樹の短編を読んだような気がする。「けっ」とそのとき思ったかどうかは覚えていないが、わたしの心になにも残さない、(わたしにとっては)くだらない小説だったのだろう。それ以来、一冊も読んでこなかったが、今回、大江健三郎との対比コメ…

女性作家の作品を読む(2)

どうにも高樹のぶ子が気になって、もう一冊読んでみた。『花嵐の森ふかく』を読了後の物足りなさと同時に、この作家への期待感に我慢がならなくなったのだ。谷崎潤一郎賞受賞作の、『透光の樹』が文庫になったのをこれ幸いに、買い求めてみた。 いや、まさに…

女性作家の作品を読む

高樹のぶ子『花嵐の森ふかく』(文芸春秋,1990.(文春文庫)) 林真理子『初夜』(文藝春秋,2002.) 山本文緒『恋愛中毒』(角川書店,2002.(角川文庫)) 川上弘美『センセイの鞄』(平凡社,2001) わたしは女性作家の小説をほとんど読んだことがない。せいぜい…

「あの日から世界が変わった (コスモブックス)」

著者はその日、たまたまニューヨークに居合わせた日本人だった。 だが、それは「たまたま」ではなかった。日本脱出以来18年、アメリカをこよなく愛し、それゆえにアメリカを愛しきれない男が、あの日、WTCのすぐ近くに居合わせたのは天の配剤だったのだろう…

インソムニア

「メメント」の監督だからと期待が大きすぎた。おどろどろしい予告編に踊らされた。じわじわと押し寄せる恐怖に震え上がるサイコ・サスペンスだと思ったのが間違いだった。「6日間眠れないほどのあまりにも異常な事件」ってキャッチ・コピーは大嘘。「セブン…

模造だっていいじゃない! 大塚国際美術館

今年の夏休みは、8月29日に一泊二日で鳴門へ行っただけだった。夫が二週間の海外研修へ出かけたため、長期の休みがとれず、家族旅行は近場へ一泊だけという貧相なものになってしまった。それでも大塚国際美術館へ行ったので、満足。わたしの周辺でいたって評…

おいしい生活

銀行強盗を企んで、銀行へ通じる穴掘りを思いついた間抜けな泥棒レイ(ウディ・アレン)だったが、カムフラージュのために妻のフレンチーが開いたクッキー屋が大はやり。おかげで銀行強盗するより金持ちになってしまい……というドタバタコメディ。いかにもウ…

ヒマラヤ杉に降る雪

物語は歯がゆいほどに淡々と展開する。静かな映像、美しくうら寂しい冬の情景は、水墨画のよう。ハリウッド的な盛り上げ方もなく、アメリカ映画らしいジョークもない。わび・さびの世界を映画にしたような作品は、日本人になら受けそうだ。 時は1954年、ワシ…

「パンツが見える。 羞恥心の現代史」

『美人論』で一世を風靡し、『愛の空間』で性交場所の変遷と風俗を描いた井上章一氏の、最新刊。 そそるタイトルに惹かれて思わず買ってしまいました。 本書は近代日本における女性の羞恥心の変遷を、「パンチラ」をキイワードに読み解く真面目な研究書、い…

「大学という病 東大紛擾と教授群像」

2002年07月24日 昭和初期の東京帝国大学経済学部の粛学事件を題材に、大学の崩壊と教員の堕落を描いた群像劇。 学術書でありながら、舞台劇を見るようなおもしろさ。過去の歴史を読みながら、現在進行形の大学改革論議を見せられているような錯覚にとらわれ…

郵便配達は二度ベルを鳴らす

公開当時、ジャック・ニコスソンとジェシカ・ラングの台所でのセックスシーンが話題になった作品。しかしこの場面の演出には大いなる疑義が残る。18歳未満の方が読んでいるかもしれないので詳細は省くが、あれはちょっと、リアリティがなさ過ぎる。特に、ジ…

光の雨

この映画を「いい映画だ」と言うことはできない。いい映画とは、どんなに暗く悲惨な内容でも、後に必ずなにがしかの希望を残していたり、あるいは、まったく絶望の淵に追いやられても、そのカタルシスに感情の解放を味わうことができるものだ。ところが本作…

鶴見俊輔と希望の社会学

本書は間違いなく労作である。 「はじらいの人」鶴見俊輔の「はじらい」はどこからもたらされたか、著者は彼の育成史に注目し、丹念に鶴見の人的ネットワークを追う。 鶴見が自己の高い出自を恥じて、その優越的な位置から自分を「不良」へと貶めていった少…