吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

映画

よみがえる声

1935年生まれのドキュメンタリー監督朴壽南(パク・スナム)が作った映画は1985年の「もうひとつのヒロシマ―アリランのうた」以来、2017年の最新作まで計4作ある。古い16ミリフィルム作品は劣化が進むままに放置されていた。いずれ上映できなくなる日が来る…

壁の外側と内側

※本作は8月に試写で見たものであるが、その後忙しくて自分のブログにはアップできないでいた。ようやくイスラエルとハマスの合意がそろったという段階であるが、まだ予断を許さない状況だ。平和が訪れることを願って、この映画を紹介する。まだ上映している…

ボストン1947

1936年のベルリンオリンピックのマラソンで優勝した「日本人」選手・孫基禎(ソン・ギジョン)が表彰台の上で悔し気に立つ姿は印象深いものだ。彼の胸にある日章旗を当時の「東亜日報」は塗りつぶして写真報道した。その結果、記事を書いた記者は逮捕され、…

太陽(ティダ)の運命

1974年の日本復帰以来、沖縄県には現在の玉城デニーまで8人の知事が就任した。映画は8代の知事の演説場面を映し出すところから始まる。 本作ではそのうち、第4代の大田昌秀(1990~1998年)と第7代の翁長雄志(おながたけし、2014~20…

砕け散るところを見せてあげる

高校生の純愛初恋物語かと思わせておいて、途中から突然不穏な殺人事件へと展開するという非常に恐ろしい作品。おまけにUFOまで登場する。といってSFものではない。 原作は小説だろうと思わせる映画であり、小説なら誤魔化せる表現が映画だと見えてしまう、…

グランメゾン・パリ

この映画を見るために年末はテレビ版「グランメゾン東京」をNetflixで一気見していたのだ。実に面白かった。正直言うと、設定にかなり無理があるなあと思ったけれど、話を面白くするためなら少々盛ってもええやんか、と目をつぶってみていた。何が面白いって…

マッドマックス:フュリオサ

「マッドマックス 怒りのデスロード」のスピンオフなのだが、肝心の「怒りのデスロード」をほぼ忘れているので、フュリオサって誰だったっけ状態。ちらっと画面に大人になってからのフュリオサが映って、それがシャーリーズ・セロンだったのでちょっとだけ思…

ナイトメア・アリー

天才的な詐欺師の末路を描く。主人公が罪を背負って生きているような雰囲気を醸し出しているのだが、発端がよくわからない。とにかく彼は故郷の大草原の一軒家に火を放って出奔し、とある出し物小屋にたどり着いたのであった。 父親の死の場面が何度も繰り返…

いもうとの時間

巻頭、背中の曲がった老女の後ろ姿が大写しになる。この曲がった腰と背中に、この人の人生の重みがすべてのしかかっていることを観客は痛感するだろう。「いもうとの時間」とは何なのか。それは、名張毒ぶどう酒事件からの60年を殺人犯の妹として生きた時…

雪の花 -ともに在りて-

巻頭からしばらくは、あまりにも芝居がかった演出なのに驚いた。で、なんでこんな演出かというと、ワンシーンワンカット、しかもフィルム撮影にこだわって撮ったということを後から知ってなるほどと膝を叩く。フィルム撮影だとその場で映像の状態をモニター…

碁盤斬り

草なぎ剛が生真面目な主人公を実にそれらしく演じていて、ほとんど素ではないかと思えるほどだ。堅物で融通が利かない。それが主人公の長所であり、短所であった。 この作品の元ネタが人情物の古典落語だということから、結末は見えているようなものだが、そ…

デューン 砂の惑星 PART2

これは3月に映画館で見たのに感想を書く時間がなくて放置したままになってしまった。見終わったときは、「これぞ映画! 映画館で見られてよかった~!」と満足していたものだ。もう一度見てみたいと熱望していた。 Amazonプライムで第1部を、Netflixで第2部…

落下の解剖学

緊張感に溢れた脚本、ぐいぐいと観客を惹きつける恐ろしさ、そして真実は闇の中という結末の付け方(つまり、結末はついていない)といい、さすがはカンヌ映画祭のパルムドール作品である。なんといってもザンドラ・ヒュラーの演技が良い。彼女が繊細な演技…

正体

本作の細部は甘々で実に脚本が緩い。リアリティのなさに驚くばかりであるが、「物語」だからえっか。この映画は横浜流星の七変化を堪能するものであり、細かいところには目をつぶるべきなのかもしれない。 ストリーは奇想天外だ。そもそも刑が確定した死刑囚…

私にふさわしいホテル

この作品も実に楽しくて良かった。原作小説がさぞ面白いのだろう。この映画のホテルとは、文豪ホテルとして名高い山の上ホテルである。わたしは先日、この近くを通りかかったが、実際に山の上(坂の上)にあるので見に行くのもしんどそうだから行かなかった…

侍タイムスリッパー

幕末のタイムスリップの話だという情報だけを入手して見に行ったものだから、現代人が幕末にタイムスリップすると思い込んでいたわたしは完全に肩透かしをくらった。逆なのだ、タイムスリップしてくるのは幕末の武士のほう。幕府側である、会津藩士。 で、結…

猫は逃げた

というわけで、先に「愛なのに」を見たので、次はそのカップリングになっている本作を。今度は城定の脚本を今泉が監督した。 わたしはタイトルを「猫が逃げた」だと思い込んでいたが、違った。「が」と「は」は一字違いで大違いである。どちらも助詞なのに、…

愛なのに

本作は、城定秀夫が今泉力哉監督と互いに脚本を提供し合ってそれぞれが監督してR15作品を作ったもの。だから本作の脚本は今泉が書いたものが元になっており、今泉監督の「猫は逃げた」とセットになっている。セットと言ってもこの2作はまったく別の物語であ…

ゴヤの名画と優しい泥棒

これは楽しい、面白い。爺さんの変コツぶりと反骨精神がよいわ! 1961年イギリス。ニューカッスルに住む60歳のケンプトン・バントン爺さんのところに受信料を払えとBBC(国営放送)の集金人たちがやってきた。しかし爺さんは平気の平左。「BBCは受信できない…

プリシラ

エルビス・プレスリーと離婚したプリシラの回想記が原作になっているので、あくまでプリシラの視線から見たエルビスが描かれている。プリシラとエルビスの西ドイツでの出会いから、メンフィスの豪邸グレイスランドでの同居、そしてついに結婚へと至る8年間が…

ホワイトバード はじまりのワンダー

原作が児童文学だけあって、物語の設定が甘いしファンタジー色が濃厚なのが大人の鑑賞には苦しい部分だけれど、十分訴える力のある映画。「「ワンダー 君は太陽」の原作者R・J・パラシオが、そのアナザー・ストーリーとしていじめっ子だったジュリアンに焦…

ルックバック

これは58分という短い上映時間にもかかわらず劇場公開時には一部ですごく話題になっていたアニメ。見た人がみな「とてもいい」というからわたしも見てみた。確かにすごくいい。何がいいかというと、小学生から大学生までの子ども時代の物語なのに、既に人生…

漁港の肉子ちゃん

とても楽しいアニメ。「肉子ちゃん」と人々や娘からも呼ばれてしまうような肉団子体形の女性が主人公。ではなく、その可愛い娘11歳の小学5年生が主人公。親に似ず細身で可愛く、頭もよく運動神経もよい。当然にも男の子にももてたりするタイプだが、母親が次…

クワイエット・プレイス:DAY 1

ヒット作の第3弾。 とはいえ、これまでの主人公だったアボット一家は誰も登場しないから、全然別の物語と言っても過言ではない。ただし、若干シリーズ第2作につながる人物も登場しているので、シリーズを見てきている観客なら、「ああ、ここでこの人がこうい…

瞳をとじて

3月に鑑賞。既にもちろん詳細はすっかり忘れている。 なんと、ビクトル・エリセ31年ぶりの長編だそう。いったい何をしていたんですか、エリセ監督。本作の主人公も老監督で、22年前に主役の俳優が突然失踪したために映画が未完に終わってしまった、すっかり…

クワイエット・プレイス 破られた沈黙

シリーズ第2作。上映時間が短いのが良い。第1作に負けず劣らず緊迫しているし、お化け屋敷みたいに驚かされるので心臓に悪い(笑)。第1作の細かいところはあまり覚えていないのだが、一家の父親が亡くなったのは覚えている。監督と主演を兼ねたジョン・クラ…

カムバック・トゥ・ハリウッド!!

なんと、オリジナル作があって、それをリメイクしたそうな。なんで今頃こんな1970年代の作品をリメイクするのかな。しかし役者が無駄に豪華なのでつい、見てしまったではないか。しかもあほらしいコメディにもかかわらず、ロバート・デ・ニーロが実に楽しそ…

最後まで行く

先にリメイク版の邦画を見ていたので、オリジナルの韓国版も見たくなった。結果、ストーリーの大筋はまったく同じなのだが、やはり韓国と日本の埋葬の違い(火葬か土葬か)があって、遺体の使い方が異なる。 どちらが面白いかといえば日本版かな。特にラスト…

最後まで行く

映画館で予告を見た時にはてっきりコメディだと思っていたのだが、どうしてどうして。これはどろどろに恐ろし気な話である。確かにコメディかもと思える場面もあるけれど、全然笑えない。 して物語は。悪徳警官たちとその上をいく悪徳上司との血まみれの汚職…

ミステリと言う勿れ

原作漫画は一話だけ読んだことがある程度のわたしがこの映画を見て楽しめるのかと思ったけれど、意外と面白かった。しかし「三人の鬼が旧家を乗っ取る」という基本の設定に相当な無理があるので、そのリアリティのなさを飲み込めるかどうかでこの映画を面白…