吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

青春ジャック 止められるか、俺たちを2

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 そして、今公開中の続編である。これも面白い。前作は、描かれた時代を知らない井上淳一白石和彌が脚本と監督を務めたが、この続編は井上淳一の体験を元に脚本が書かれているため、学生時代の井上の怒りや葛藤や希望や嫉妬など、様々な思いが直に伝わってくる。

 続編は1982年以後数年間の名古屋を舞台とする、映画愛と映画館愛に溢れた作品だ。若松孝二が自分の作品を上映するためにミニシアター「シネマスコーレ」を開館するところから始まる。支配人に抜擢された木全純治のキャラクターが実によい。陽気で楽観的で映画愛に溢れて、見ていて心が清々しくなる。そのキャラを東出昌大がとてもいい味わいで演じているのを見ながら、わたしはこの役者さんの成長ぶりに感動していた。木全の妻役のコムアイもすごくいい人柄がにじみ出る演技で印象に残った。

 前作から10年経ち、若者たちの反乱も既に遠くなっていた。おとなしい若者に対して無軌道ぶりを発揮しているのは相変わらず全共闘世代であり、河合塾では全共闘くずれの講師たちがユニークな講義を行っていた。その場面がものすごく面白い。そういえばわたしはこのころ河合塾のバイトをしていたことを思い出して懐かしかった。

 この作品では相変わらず若松孝二役の井浦新が見事な物まねぶりを発揮していて、そのしゃべり方やら口元のゆがめ方やらを見ているだけで微笑ましい。若松孝二の大ファンであった井上淳一少年が、若松を追って新幹線に飛び乗って東京まで行ってしまうエピソードなど、とても微笑ましくてよい。前作と同様に、映画監督になりたい若者たちの挫折も葛藤も描かれていて、そこはやはり胸が痛くなる。

 井上淳一が早稲田の学生にもかかわらず映画監督としてデビューしていく様子がなかなかリアルで、若松監督がついついしゃしゃり出てきてしまうあたりは笑っていいのか呆れるべきなのかと考え込んでしまう。これ、今なら完全にパワハラですな。

 やはり映画ファンとしては、このように映画製作者たちの思いがストレートに表現されている作品は見逃せない。映画館への愛にも胸が熱くなる。シネマスコーレが潰れずに今でも存在し、無事に40周年を迎えられたことを寿ぎたい。若松孝二その人の内面には迫らず、若者たちが見た若松を描いている点も前作と同じつくりであり、それはわたしには好ましいものに映った。

 前作を見ていなくても十分楽しめる映画と思うが、前作を見ていれば、ラスト近くに出てくる善積恵(門脇麦)の写真にぐっと胸をつかまるだろう。

 こうなったらさらに10年後を舞台にしたシリーズ第3作を作ってほしい。

2023
日本  Color  119分
監督:井上淳一
企画・プロデュース:木全純治
脚本:井上淳一
撮影:蔦井孝洋
音楽:宮田岳
出演:井浦新東出昌大、芋生悠、杉田雷麟、コムアイ田口トモロヲ門脇麦田中麗奈竹中直人