沖田修一監督の初長編だそうな。長編といいながら72分しかないのでサクサク進む話は小気味よい。と言いたいところだが、これまた引きこもりの高校生と自殺未遂の叔父さんというダメ人間セットの話なので、ちょっとうんざり。最近ダメ人間の映画を続けて見ているので、全然すかっとしない。しかしこの映画は古舘寛治の味わいが最高によい。なんでこの人はこんなに上手いんだ?
家族の食卓風景と言えば「家族ゲーム」の横一列の一家4人の食事風景ほど度肝を抜かれたことはない。あれは空前絶後だった。あの映画から40年近くの間、なんとなく家族ゲームを模したような雰囲気の食卓が描かれたことはあったと思うが、「このすばらしきせかい」の食卓はごく普通の4人のテーブルにも拘わらず、なぜか「家族ゲーム」を想起させるものがある。
この一家は食事中にテレビを見ている。しかも野球中継などの娯楽番組だ。食事中に家族の会話もほとんどなく、食事を終えた高校生の息子は「ごちそう様」と言っただけで食器を片付けもせずに自室へと立ち去ろうとする。つまりこの家庭はまったく躾ができていないということがよくわかる。
そんな一家に転がり込んできたのが、自殺未遂して運び込まれた病院から退院したばかりの冴えない中年の清。経営していた会社がつぶれ、先行きがまったく見えない状態なのに、いまだに現実を直視することができずにのほほんと生きている。そんな清は甥である涼一が自宅に引きこもってゲームばかりしているので、いつも二人で微妙な距離を保ちながらなんだかんだと一緒に居る。
その二人が電車に乗って出かけたりするのはいわゆるロードムービーなのかもしれないが、この叔父さんがまた夢想家でどうしようもないやつ。「おじさんの夢はなあ、自転車で世界一周旅行するんだ」。ほえっ、どこかで聞いたことのある台詞やねぇ。
で、「誰も登ったことのない山に登って、頂上に恵まれない子どもたちの施設を建てるんだよ」だって。「でもなあ、恵まれない子の体力じゃ登れないけどな」。をいっ!
こんな調子で妄想を膨らませるバカ叔父さんは、結局仕事もせずに競馬に精を出している。甥っこにバカにされているのにそれにも気づかないのか気づいているのかよくわらかない。この天然ぶりのだらしない男、自尊心だけは肥大していて、自分の努力で人間関係を築いてきたとか思い込んでいる、こんな人間はいるよなあ。周囲にさんざん迷惑かけていることにも気づかない、こんな人間に限って「ぼくを信用してほしい」とか言うのである。
まあしかし、そんな叔父さんと甥っ子でも、少しずつ前を向いて歩いていこうとしている。だから映画を見終わってなんとなくいい気持になっている。どんな人間でもいい。自殺するぐらいなら、どんなにダメ人間でもいいから生きていてほしい。それがこの素晴らしき世界なんだよね。(サンクスシアター配信)
2006
日本 72分
監督:沖田修一
制作:荒木孝眞
脚本:沖田修一
撮影:大目象一
出演:畑敬志、古舘寛治、大崎由利子、兵藤公美、志賀廣太郎、安村典久