吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

9人の翻訳家 囚われたベストセラー

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 プルースト失われた時を求めて』、これが本作の最大のギミックではなかろうか。実はこの世界史に残る名作といわれている小説を私は読んでいない。同時にこの映画で言及されているジェイムズ・ジョイスユリシーズ』をわたしは邦訳1巻だけ読んで途中放棄してしまった。今後、この2作については現役引退してからの楽しみにとっておこう。

 さて、本作は出版社が『ダ・ヴィンチ・コード』などのシリーズ作の翻訳版を出版するさい、実際に翻訳家たちを地下室に閉じ込めて仕事させたということにヒントを得て作られたという。本作に登場する各国9人の翻訳家の中に残念ながら日本人はいない。アジア系では中国人だけだ。世界的大ヒット作を各国語に翻訳するという設定で、内容の流出を恐れた出版社が翻訳家を閉じ込め、ネット厳禁で監視しながら毎日少しずつ原稿を渡して翻訳させていくという物語。

 舞台がフランスだから三食の料理がおいしそうで、こんなだったらわたしも缶詰にされて原稿を書きたい!と思ってしまう。豪邸の地下に閉じ込められるので、豪邸の庭も素敵、プールもあるでよ。ロシア語の翻訳家がオルガ・キュリレンコ。彼女が白いドレスで登場すると画面がぐっと華やかになる。けっこう細部が凝っていて面白いのだ、この作品は。

 しかしなにしろ登場人物が多い。翻訳家だけで9人。それぞれがそれなりにキャラが立っているからなんとなく区別はつくけれど、「あれ、この人は何国人だったけ」と途中で頭が混乱してくる。そのうえ、物語の構造が入れ子の上にさらに入れ子になっているというマトリューシカ状態。

 原稿を盗み出して複写機にかけるシーンのスリルはたまらなく面白かったけれど、それもまたやりすぎの設定であることが後から判明する。全体に話を作りこみ過ぎてリアリティに欠けてしまった。しかしこの映画はリアリティなんかどうでもいいのだ。文学を取り戻す!っていうのが裏テーマ。確かにこの映画を見ると小説をいろいろ読みたくなる。出版社の商業主義を批判する映画でもあるのだが、昨今の出版不況を見るにつけ、商業主義も発揮できない悲しい業種になりつつあると複雑な気持ちに襲われた。。。(レンタルDVD) 

2019
LES TRADUCTEURS
フランス / ベルギー Color 105分
監督:レジス・ロワンサル
製作:アラン・アタル
製作総指揮:グザヴィエ・アンブラール
脚本:レジス・ロワンサル、ダニエル・プレスリー、ロマン・コンパン
撮影:ギヨーム・シフマン
音楽:三宅純
出演:ランベール・ウィルソンオルガ・キュリレンコリッカルド・スカマルチョ、シセ・バベット・クヌッセン、エドゥアルド・ノリエガ