吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2022-01-01から1年間の記事一覧

生きろ 島田叡 ―戦中最後の沖縄県知事

戦前最後の沖縄県知事・島田叡(しまだ・あきら)の知事としての最期の生きざまを記録映像と証言によって構成するドキュメンタリー。 島田は今でいうキャリア官僚なのに、リベラルな思想を持っていたためだろう、内務省の中央省庁には勤務したことがなく、地…

シカゴ7裁判

これは見ごたえある作品。脚本と編集がじつに巧みだ。冒頭、ベトナム戦争が泥沼になる時代の雰囲気を当時のアーカイブ映像で一気に見せる。1968年4月4日にはキング牧師が暗殺され、続いて6月にはロバート・ケネディが。そんな不穏な状況下に、8月には民主党…

ベルファスト

アカデミー賞脚本賞を獲ったことも納得の面白さ! ケネス・ブラナーの作品でいちばん見ごたえがあった。子ども目線で作られているとはいえ、実は各所でちゃんと大人の事情が挿入されているため、観客にも状況がよくわかり、配慮が行き届いている。 ケネス・…

大河への道

なんということもない映画だと思って見始めたが、意外な拾い物。最後は泣かされました。原作が落語だけあって台詞に勢いと面白味が多く、笑いながらも最後にほろっとさせるという心憎い作品。役者が全員、現代編と江戸時代編の二役を演じているのも面白い。 …

アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド

他者とは何かを考えさせられるラブ・コメディ。ドイツ人がイギリス人に恋するという設定が面白い。 理想の恋人をAIに演じさせるという実験に参加した中年女性科学者が、半信半疑の理想生活を続けるうちにこの「偽の恋愛感情」に疑問をもつ、というあらすじ。…

感染家族

今まで見たゾンビ映画で一番面白かったかも。とにかく笑った。もうあほらしい設定、あほらしい展開、あほらしい途中経過、あほらしい結末。すべてがあほらしくて笑える。 とある田舎町に突然現れた若いゾンビ。これがゾンンビのくせに弱くて、犬に追いかけら…

ナイブズ・アウト:グラス・オニオン

劇場公開していないのに、ゴールデングローブ賞などにノミネートされている。 「ナイブズ・アウト」で名探偵ブノワ・ブランを演じたダニエル・クレイグがこの作品でシリーズ出演するのだろうか? 今回もなかなか面白かった。 かなり早めに謎解きが始まるので…

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

12年前に「アバター」を見たとき、その感想としてわたしは、「先住民を虐殺したアメリカ建国のトラウマを癒す物語。世間では3D映像の技術的なことばかりが取りざたされるが、この映画は<国民の歴史><アメリカ人の記憶>を鎮める役目を果たす映画なのだ。…

ハウス・オブ・グッチ

1921年に創業されたイタリアのグッチが世界のブランドとしてその名を馳せた時期に、同族経営の内紛から崩壊していくその過程を描いた作品。主人公は1970年代後半にグッチ家の御曹司と結婚したパトリツィア。上昇志向でギラギラした下品な女をレディ・ガガが…

オフィサー・アンド・スパイ

世に名高いドレフュス事件の真相を追う物語。巻頭に「本作はすべて史実である」という文字が流れる。 主人公はドレフュスの元教官であった陸軍大佐ピカールである。ユダヤ人という理由だけでスパイの冤罪を着せられたドレフュス大尉が軍籍を剥奪される式の場…

オールド

ナイト・シャマラン監督とは相性がいいのか悪いのか不明。当たり外れが大きいのだが、今回は割と当たりのほう。タイトルの「オールド」は「老化」という意味で使われている。 1日に50歳も歳をとってしまうという不思議な海岸があって、そこに閉じ込められた…

ザ・メニュー

世界一予約がとれないレストランといえばエル・ブリ。このレストランとシェフを取材したドキュメンタリー映画「エル・ブリの秘密」(2011年)を長男Y太郎(当時20歳の学生)と一緒に見たことを思い出す。そのエル・ブリも今は閉店している。 今回の主人公・…

老後の資金がありません!

老後は一人2000万円を用意しろとどこかの国の大臣が偉そうに言っていたことを思い出す。それは2019年に金融庁が発表した報告書に書かれていたこと。しかし今や、2000万円でも足りないというではないか。65歳までに4000万円を貯蓄しておく必要があるとか。そ…

ディアスキン 鹿革の殺人鬼

鹿革に異様な執着を抱く主人公の中年男が、大金をはたいて鹿革のジャケットを入手するところから映画は始まる。そして彼はそのお気に入りのジャケットを着こんで自家用車を一人運転して旅に出る。どこか知らない田舎町の小さなホテルで宿泊するのだが、鹿革…

囚われた国家

この作品を見てまず思い出したのは1980年代に日本でも放送されたアメリカのテレビドラマ「V」だ。エイリアンに占領された地球では、征服者に迎合する人間と抵抗する人々との闘いが描かれていた。して、本作もかなりそのテイストに近い。ただし、物語全体がと…

劇場版 きのう何食べた?

テレビシリーズもAmazonでちょっとずつ見ていた、けっこうお気に入りの作品。なんといっても美味しそうな家庭料理が毎回見られるのが嬉しかった。美味しそうでかつ、手ごろな材料を使っているから、「わたしにも作れそう」と思えるところがよい。 で、今回は…

アムステルダム

これは異色の歴史劇。面白いのになぜか劇場用パンフレットが作成されていない。残念である。 「ほぼ実話」というキャッチコピーが何度も踊る予告映像がFBなどで流れてきたが、「ほぼ実話」ということはつまり、実話に名を借りたフィクションということだな、…

レイニーデイ・イン・ニューヨーク

なぜウディ・アレンの作品に出てくる主人公はウディ・アレンみたいに見えるのだろう? 外見は全然違うのに、背中を少し丸めて早口でしゃべる様子、手振り身振り、全部ウディ・アレンやんか! でもティモシー・シャラメ君ですからね、ウディ・アレンとは似て…

ある男

事故で突然亡くなった夫の氏名や経歴がまったく偽造されていたことを知った妻が弁護士に調査を依頼し、夫の過去を探っていくという物語。こういう粗筋なら、「嘘を愛する女」(2018年)など最近の日本映画も思い出す。 して、謎の夫の背景を調査していく城戸…

めぐりあう日

エリザは理学療養士。どこか冷ややかな印象を受ける美しい彼女は8歳の息子と一緒にパリからダンケルクに引っ越してきた。パリには夫を残していて、もはや夫とは修復不可能な別居のように見える。養父母に育てられたエリザは実の親を探して故郷に戻ってきたの…

百姓の百の声

本作は、全国の農家を訪ねて、お百姓さんたちの創意工夫に触れていくドキュメンタリー。 いきなりの業界用語連発! 農業用語がわからない! 画面には疑問符が躍る。そう、わたしたちは農業を知らなさすぎる。これが巻頭に提示された問題だ。 ふだん何気なく…

アプローズ、アプローズ! 囚人たちの大舞台

騙された、と口あんぐりの呆れた結末。「予想外の結末があなたを待っている」とか「ラスト20分の感動」とかの惹句に煽られたのがいかんのか、感動の方向がまったく違ったことに呆然。映画を見終わった後のわたしの感情は激しく揺れ動き、驚きから怒りへ、そ…

サハラのカフェのマリカ

かつて、「バグダッド・カフェ」という映画があって、名作との世評が高かったのだけれど、わたしは何度見てもこの映画は途中で爆睡してしまって最後まで見た試しがない。なので、今回のサハラのカフェもきっとそういう映画に違いない、と見る前からもう爆睡…

とんび

2度テレビドラマ化されて、今度は映画。三度も映像になっているのだから、原作小説はさぞや売れたのだろう。 で、今度は瀬々敬久監督。瀬々さんはいつから人情物の人になったんだろう。いやまあ、実にうまいじゃないですか。何度も泣かされましたよ。泣きの…

沈黙のパレード

犯人捜しの謎解きとしてはなかなか面白かったのだが、いくつか腑に落ちないこともあり、まあ関係者が多すぎるからいろいろややこしい展開であった。 福山雅治主演のこのシリーズ、結局全部見ているわたしって…。ひょっとして福山雅治ファンだったんだろうか…

クレッシェンド 音楽の架け橋

パレスチナとイスラエルから選抜された若者たちから成るオーケストラが共に音楽を編み上げていく過程を描いた感動作。と言いたいところだが、実際にはかなりつらい物語であった。これは実在のオーケストラをモデルにしていて、世界的指揮者が登場する、その…

先生、私の隣に座っていただけませんか?

「夫の不倫に気づいた人気漫画家の妻が新作で不倫漫画を描き、虚実あいまいなその内容に夫が不安と恐怖を募らせていく夫婦の心理戦がスリリングに展開していく」とallcinemaに紹介されていた。まったくその通りで、これは妻から仕掛けられた心理戦にまんまと…

シルバー・スケート

1900年12月、凍った町サンクトペテルブルクでは人々がスケート靴を履いて行き交っていた。そんな中に、露店で賑わう街をスケートで滑走しながら移動する若者のスリ団があった。彼らの手口は実に巧妙でスピードにあふれている。スリ団を映すカメラの切り返し…

ハリエット

女ダイハードみたいな話なのには驚いた。「自由か、死か!」と叫ぶハリエット、かっこよすぎるやんか。 ハリエットのことをわたしは何も知らなかった。このたび、黒人女性として初めてのドル札の顔になるという。女性としても黒人としても初というので、これ…

親愛なる同志たちへ

スターリンの粛清は有名だが、フルシチョフの時代でも住民を虐殺した、まるでソ連の光州事件のようなことがあったとは知らなかった。しかもその事件が起きた都市の名前が覚えにくくて舌を噛みそうだ。その都市ノヴォチェルカッスクはソ連南部にあり、現在の…