吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

顔たち、ところどころ

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 この映画の魅力を堪能するためには大きなスクリーンで見るしかない。残念ながらわたしは自宅のテレビモニターで鑑賞したのだが、それでもiPadで見るより遙かに感動することができたのだから、やっぱり画面は大きいに限る。

 ゴダールと同世代の女性監督であるアニエス・ヴァルダと、彼女の孫の世代の若いJR(ジェール)という青年アーティストとのロードムービーである。二人は意気投合して旅に出るのだが、時に衝突したりして、その様子もまたほほえましい。

 若いJRは常にサングラスを外さない。そこをアニエスは突っ込む。なんでずっとサングラスなの? ああ、そういえばゴダールもずっとサングラスを外さなかったわ。

 自分はサングラスを外さないくせに、JRは出会った人々には素の姿の撮影を求める。そして、撮影した巨大なモノクロ写真をいろいろな建物の壁に貼り付けていくのだ。その絵柄や壮観! これは言葉にして表現できるものではない。巨大な人物像の写真が壁に貼り付けられているところを想像してみてほしい。これはぜひ大きなスクリーンで見てみよう!

 また、この映画ではアニエスとJRはすでに廃墟に近くなった炭鉱社宅を訪ねていく。そこにたった一人暮らす老婦人の写真を社宅の壁に貼り付け、かつての賑わいのあった炭鉱町の記憶を呼び覚ます。ここも胸に迫るインタビューを聞くことができる。この映画の素晴らしさの一端がわかる場面だ。炭鉱映画の名作がまた一つ生まれた。

 90分未満の短い作品で、老女と青年が車に乗って移動して、行く先々で人々の肖像写真を撮っては巨大な壁画にしていく、というそれだけの映画なのだが、いや、それだけでもすごいのだが、とにかくアニエスとJRの個性が魅力にあふれているのだろう、二人の掛け合いが観客を飽きさせない。これは意外な掘り出し物だった。その後ほどなくしてアニエス・ヴァルダが亡くなってしまったことを思えば、よくぞこの映画を残してくれたものだと感謝するしかない。(Amazonプライムビデオ)

2017
VISAGES VILLAGES
フランス Color 89分
監督:アニエス・ヴァルダ、JR
製作:ロザリー・ヴァルダ
脚本:アニエス・ヴァルダ、JR
音楽:マチュー・シェディド
出演:アニエス・ヴァルダ、JR