吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2021-01-01から1年間の記事一覧

残された者 -北の極地-

紅白歌合戦などは見向きもせず、ぬくぬくとした自宅の居間に寝そべりながら見たのはこの北の極地の物語。わたしが役者だったら絶対にあんな映画には出たくない!という寒くてたまらない過酷な撮影だったに違いない。 映画はいきなり小型飛行機が雪原に埋もれ…

パーフェクト・ノーマル・ファミリー

ある日突然、両親が離婚するという。その理由が「パパが女性になりたいから」だと聞けば二度びっくり。というよりも驚天動地の、世界が裏返るような出来事に違いない。とりわけ思春期に差し掛かる難しい年ごろの少女にとっては言葉にできない思いがあるだろ…

キャッシュトラック

ついこの前まえ映画館で上映していたのに、もう配信されているなんて! それはともかく、この手のアクションものの演出はやっぱりガイ・リッチーです。うまいわ。時間軸をいじって、「あの場面は実は…」という見せ方をしていくのが観客の興味をそそり、同じ…

ブラックバード 家族が家族であるうちに

原作は戯曲かもと思ったら、ビレ・アウグスト監督作のリメイクであったか。なるほどと納得。たぶん、原作よりかなり明るく変えられているのではなかろうか。 安楽死をめぐる映画はここ10年ほどで増えているように思う。その中でも本作は突出して明るく、鑑賞…

火口のふたり

タイトルバックの写真からしてまるでポルノ。そのあとも「まあ、なんていやらしい映画でしょう」と思わせる場面が続出するので誰が撮ってるんだと調べたら荒井晴彦。なるほど、と納得。当然にもR18+だった。 登場人物はほぼ二人だけ。従兄妹どうしの二人は血…

水俣曼荼羅

6時間を超える上映時間。途中2度の休憩をはさんで、三部作に分かれている。劇場では都合6時間半かけて見ることになる壮大なドキュメンタリーだが、まったく飽きることがない。その理由は、この作品が曼荼羅というタイトルにふさわしく大勢の登場人物たちに肉…

燃ゆる女の肖像

様々に小さな伏線を敷き、実に機微に富んだ心理描写をしている作品であり、見終わってから胸にじわっと染みてくる。 「セリーヌ・シアマがカンヌで脚本賞を獲った作品、観たか?」と息子Y太郎(30歳、在仏)に尋ねたら、即座に「ああ、シアマか、彼女の映画…

岬の兄妹

足に障害がある兄と、知的障害のある妹の極貧生活。母親も亡くなり、電気も止められた掘立小屋のような家に暮らす二人は、食べるに窮してとうとう売春を始める。妹の真理子は嫌がっていないし、これで儲かるなら、と兄は「1時間1万円で最後までできます」と…

返校 言葉が消えた日

社会派ホラー映画という触れ込みに惹かれて見始めたのだが、これは台湾の黒歴史に向き合った作品として印象に残った。こういう映画が中国本土では作れないだろうと思うと悲しいし、日本ではもっと難しいだろうと思うと憂鬱になる。 「学校の怪談」みたいな映…

アンモナイトの目覚め

実在の、在野の古生物学者であったメアリー・アニングと、彼女の恋人となる若き人妻とのひと時の秘めた愛情物語。メアリーは実在の人物だが、彼女の恋愛についてはフィクションである。 19世紀半ばのイギリスでは女の権利などどこにも存在しない。メアリーは…

ボストン市庁舎

なにしろワイズマン監督である。最近はどんどん上映時間が長くなって、「ニューヨーク公共図書館 エクスリブリス」は3時間半もあった。こんどの「ボストン市庁舎」に至っては4時間32分という増長ぶり。こんなことでいいと思ってんのか、責任者出てこーいと、…

ユダヤ人の私

ホロコーストを生き延びた104歳の老人が一人カメラに向かって淡々と自分の体験を語る。ただそれだけの映画なのに、一切退屈することがない。話の要所要所で章を区切るように、過去の国策映画やニュース映像が挿入される。それがブレイクタイムの役目を果たし…

これは君の闘争だ

2016年の軽井沢スキーツアーのバス事故で亡くなった学生が最後に読んでいた本が、小熊英二『社会を変えるには』だったという記事が「朝日新聞」(2017.1.15)に掲載されている。日本の学生はなかなか社会を変えるための行動に立ち上がらない。安保法制反対運…

恋する寄生虫

寄生虫が宿主の精神状態を左右して支配するという物語の設定は、R.ドーキンス『利己的な遺伝子』や瀬名秀明『パラサイト・イヴ』を想起させる。頭の中に寄生虫が居る男女は寄生虫に操られて恋に落ち、虫の繁殖を助けることになる――そんな奇抜な発想で書か…

私は、マリア・カラス

こういう伝記ドキュメンタリーをなんの期待もなく見ると実は面白い、という感想を持ってしまう。わざわざお金を払って映画館へ行っていたら腹が立つかもしれないが、就寝前にベッドの中に毎晩持ち込んでいるiPadで見る映画としてはまったく問題なく楽しめる…

希望のかなた

アキ・カウリスマキ監督の作品は久しぶり。どんなふうに作風が変わったのかと楽しみにしていたら、これがまったく相も変らぬカウリスマキ調大展開。巻頭からしばらくののんべんだらりぶりにちょっと眠気を催し始めたころ、主人公のシリア難民とフィンランド…

ある人質 生還までの398日

7月に鑑賞。四か月近く経ってしまったので、いつものようにすっかり忘れているが、これは見ごたえあったという記憶が残っている。こういうときにパンフレットを買っておくのは役に立つ。読みながらあれこれと思い出すのだ。 2013年4月から2014年6月まで1年…

ゴジラvsコング

8月に映画館で鑑賞。 これ、“モンスター・バース”シリーズの第4弾だそうな。どうりで、ほとんど何の説明もなくいきなりいろんな話が始まるから、「モナーク」って何だったっけ? なんでいきなり芹沢博士が出てくるんだ? まあ、ゴジラに芹沢博士はつきもの…

異端の鳥

モノクロで描かれるホロコーストの凄惨。これはホロコーストというよりも、もっと根源的な人間の悪について描いた映画だ。だからこそ舞台を特定の国に限定せず、主人公の少年の名前も不明なままだった。ホロコーストは人間の悪の部分の一つの象徴であって、…

引っ越し大名!

今年5月、星野源が新垣結衣と結婚したとかで大騒ぎになっていたその直前に、彼が主演した映画をたまたま見た。テレビを見ないわたしとしてはなんでこの二人の結婚がそんな大きなニュースなのか理解できなかったのだが、さぞや二人が主演したテレビドラマが面…

クーデター

とある東南アジアの国で起きたクーデターに巻き込まれたアメリカ人駐在員が家族を連れて必死の脱出を試みる、サバイバルアクション映画。 主役が「エネミーライン」のオーウェン・ウィルソンだからマッチョなパパが孤軍奮闘するのかと思いきや、このパパ、さ…

スウィンダラーズ

ヒョンビン目当てで見た映画。イヤー面白いですねぇ、さすがは韓国映画。これは詐欺師が詐欺師をだます話で、日本ならコンフィデンスマンJPの類なんだけど、さすがはヒョンビンが演じるだけあってアクションものなのであります。 しかも話がだんだんこんがら…

ナショナル・ギャラリー 英国の至宝

ナレーションも解説の字幕もつかないという、いつものワイズマンの作風。「エクス・リブリス ニューヨーク公共図書館」はかなり以前に本を読んでニューヨーク公共図書館のことを知っていたので、映画としては全然新鮮味がなくて爆睡していたが、今回のミュー…

ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実

この映画はベトナム戦争が終わる前に作られているので、撤退の様子は映っていない。兵士たちの生々しい証言が胸を打つ。今では有名になったベトナム人たちが逃げ惑う姿の映像(世に知られているのは静止画)が改めて映し出されて、こういう画は見飽きるとか見…

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

タイトルはどう訳すべきなのだろう? 「死ぬべき時じゃない」なのか、「死んでる暇はない」なのか? どっちにしても、ダニエル・クレイグが演じるジェームズ・ボンドとはこれでお別れなのだ。壮絶な最期であった。これでシリーズそのものが終わるのだろうか…

クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代

Amazonプラムビデオではなぜか吹き替え版しか見られなかったので、日本語吹き替えで。しかしこれは意外な効果があった。ナレーションをラジオのように聞きながらほかの仕事の合間に「ながら見」が可能だったから。まあこういう見方は邪道だけどね。 で、ここ…

空白

これは「由宇子の天秤」と双璧をなす作品だ。わたしは「空白」のほうが好き。ラストに少しでも希望があるから。 <以下、あらすじをかなり書いていますので、鑑賞前に読むかたはご承知のうえでお願いします。完全ネタバレの注意は末尾に書いています> 海辺…

MINAMATA―ミナマタ―

1977年だったか78年だったか。京都で水俣写真展が開かれていた会場の、1枚の写真の前に釘付けになり、わたしは静かに涙を流していた。そのときわたしはおそらく怒りに震えて涙を流していたのだろう。入浴する智子さんと、彼女を抱いたまま一緒に湯船につかる…

望み

高校生の息子が行方不明になった。と同時に、息子の周辺で殺人事件が起きる。息子は事件の加害者として逃亡しているのか、それとも被害者として殺されたのか。事件の様相がはっきりするまでの数日間、両親の心は揺れる。たとえ殺人犯でも生きていてほしいと…

由宇子の天秤

天秤座は正義と天文の女神アストライアーが正義を測る天秤をかたどっているそうだ。この映画の主人公、ドキュメンタリーディレクターの木下由宇子の天秤もまた正義を測っているのだろうか。 3年前に自殺した女子高校生の事件の真相を描くドキュメンタリーを…