2003-01-01から1年間の記事一覧
中国残留日本人孤児の存在が広く知られるようになって久しい。引揚者の悲惨も現地に残された孤児たちの悲惨も、引き上げてきた親の苦しみも、たとえば『大地の子』(山崎豊子)などで知られて、とりわけTVドラマは視聴者の感涙を呼んだそうだ(わたしはTVも…
水村美苗は『続・明暗』(1990年)を書いて有名になった文学者である。夏目漱石の未完の大作の続編を、漱石そっくりな筆致で書き上げたとして一部でえらく話題になった。 そして、次に公刊した作品が『私小説』(1995年)だ。まさに私小説であり、水村の自伝…
今の日本社会では、「能力による選別は差別」とは認識されていない。「能力に応じて働く」のはよいことだとされている。公正に能力に応じているのだから、能力のない者が負け組になるのは当たり前。そうなりたくなければ努力しましょう。この論理に歯向かう…
先週、臓器移植問題の学習会に参加した。といっても、実際には「オール・アバウト・マイ・マザー」(スペイン、アルモドバル監督、1998年)のビデオを見ただけなのだが。ビデオを鑑賞後に喫茶店で食事しながらスペインの臓器移植コーディネーターについてレ…
先週、臓器移植問題の学習会に参加した。といっても、実際には「オール・アバウト・マイ・マザー」(スペイン、アルモドバル監督、1998年)のビデオを見ただけなのだが。ビデオを鑑賞後に喫茶店で食事しながらスペインの臓器移植コーディネーターについてレ…
私小説 From left to right 水村 美苗著 : 新潮社(新潮文庫): 1998.10 ----------------------------------- 主人公水村美苗には二歳年上の奈苗という姉がいて、二人はそれぞれ13歳と15歳で家族とともにニューヨークに移住した。そのまま…
文明の内なる衝突 テロ後の世界を考える 大沢 真幸著: 日本放送出版協会(NHKブックス): 2002.6 ------------------------------------ 「9.11」から2年が過ぎ、日本国の首相は自衛隊をイラクに派兵することを決めた。9.11以降、さまざまな言説がテロ…
大阪城ホールの天井近くに据え付けられたモニターは、オケに微笑みかける佐渡裕を映し出していた。 指揮者佐渡裕の指揮棒の先からほとばしる情熱に応えて流れる曲は、ベートーベンの交響曲第9番ニ短調<合唱付き>。 時に厳しい表情になり、時に感激にむせぶ…
名前も曲も知らない歌手のコンサート。ピアノの弾き語り。どんなジャンルなんだろう。最近流行りの癒し系か。バッファリンのコマーシャルソングを歌っているって? 知らんなぁ。前売り1200円というのは安くてよいな。え? 彼女のデビューアルバムが家にある…
論理哲学論考 (岩波文庫) ウィトゲンシュタイン著 野矢 茂樹訳 : 岩波書店 : 2003.8 ----------------------------------- 友人が訳したからというだけの理由で数年前に読んだのが、『ウィトゲンシュタイン』(講談社選書メチエ)だった。これがウィトゲ…
ある日の仕事帰り、重い鞄に加えて買物袋をいくつもぶらさげ、荷物の重みに腕をとられながら我が家の門扉に嵌め込まれているポストを開けた。夕刊に交じって届いている封筒は青磁社という出版社からの冊子小包だった。著者の依頼による出版社直送便であるこ…
エトロフの恋 島田 雅彦著: 新潮社 : 2003.9 -------------------------------- 『彗星の住人』から『美しい魂』へ続き、そして完結編が本作。といいたいところだけれど、島田センセイ、これ完結してないじゃないですか! ♪ここは地の果てエトロフのぉ~(…
美しい魂 島田 雅彦著 : 新潮社 : 2003.9 ----------------------- めくるめく100年の恋が描かれた『彗星の住人』の続編は、蝶々夫人から数えて4代目のカヲルが主人公。大河物語に酩酊した第一作とは異なり、本作はいわば同時代史であり、時間はゆったりと…
言わずと知れた「十二人の怒れる男」のパロディ。先にオリジナルを見ておいたほうが面白みは倍増する。 オリジナルと同じく陪審員たちが密室に篭って殺人事件の有罪無罪をめぐり舌戦を繰り広げるという室内劇。途中休憩のトイレの場面までオリジナルのパロデ…
少年の面影を残す喪主が、会葬者にお礼の挨拶を述べた。喪主は内気で口下手で、ちゃんと挨拶ができるのかと母親をハラハラさせていたが、彼がいつまでも泣き虫小学生のままではないことを彼女は忘れているようだった。 ************** 8月に妻…
図書館で借りてきたこの本をめくると、いろんな匂いがする。煙草の匂い、部屋の匂い、体臭。お香のような匂いがすることもある。 1ページごとに不思議な匂いがしてくる、本の内容を楽しむ以外にもそういう楽しみ方(顔をしかめることもあるが)があったのだ…
この本をごく普通のコミュニケーション論だと思って読むと、第2部で仰天してしまう。まるでSF小説を読むかのようだ。そこに描かれる近未来の電子コミュニケーションは、イメージの洪水の中で集団意識に染まりながら、交流者どうしが互いの意識を通わせ社会の…
意識通信 (ちくま学芸文庫) 森岡 正博著 : 筑摩書房 : 2002.7 -------------------------------- この本をごく普通のコミュニケーション論だと思って読むと、第2部で仰天してしまう。まるでSF小説を読むかのようだ。そこに描かれる近未来の電子コミュニ…
心がそよそよと風に誘われて泡立ち、清浄な水に洗われて静かに浜辺に打ち寄せるような本。おさかなさんと対話しているような気持ちになれます。 鶴見和子のきっぷのいいしゃべりかた、理知的で潔い。鶴見の歌集は以前、書店で立ち読みした覚えがある。いくつ…
何をやらせてもできる天才児というのは確かにいるのだろう、驚異の記憶力と文才、バスケットボールの才能。どれか一つでもあれば世の中で成功するには充分なんだけれど、全部を持っている人間っていったい自分のことをどう見ているのだろう? もうわたしなん…
彗星の住人 島田 雅彦著 : 新潮社 : 2000.11 ------------------------------- 最近こんなに夢中になって読んだ小説があっただろうか? 4代100年にわたる恋の物語、登場するのは蝶々さんとピンカートン、マッカサー元帥に原節子、描かれるのは日米関係史。…
太田さんの知のあり方にはとても共感する。ゲバラやキューバ革命を相対化し批判する。かといって「今だから言える」ような批判をのうのうとたれるようなことはしない。歴史の痛みを我がこととして捉える感性には共鳴しきり。 ただし、本書は評論集なので同じ…
ためらいの倫理学 (角川文庫): 戦争・性・物語 内田 樹著 : 角川書店 : 2003.8 ------------------------------- 単行本は既に買って読んだというのに、新しいテキストが4本入って高橋源一郎の解説文も掲載されているとか聞くと、ついつい買ってしまった…
森岡ワールド全開ですなぁ。 読んでて恥ずかしくなるときもあるけど、この人の実直さはどこへ向かうんだろうという興味と危うさを感じさせます。 結局、愛なのよね、「愛」、森岡さんのいいたいことは。 あ、そういうふうにまとめちゃうと森岡さんに怒られる…
それはとても不思議な展覧会だった。 小学校の体育館をふたまわりほど小さくしたホールの3方に白いパネルが張り巡らされ、そこには10センチ四方ほどのモノクロ写真が100枚貼られている。写真の下に一行の文字が書かれたプレート、その下に30センチ四方くら…
パレスチナで生きて死ぬこと(展覧会とシンポジウム) それはとても不思議な展覧会だった。 小学校の体育館をふたまわりほど小さくしたホールの3方に白いパネルが張り巡らされ、そこには10センチ四方ほどのモノクロ写真が100枚貼られている。写真の下に一行…
それはとても不思議な展覧会だった。 小学校の体育館をふたまわりほど小さくしたホールの3方に白いパネルが張り巡らされ、そこには10センチ四方ほどのモノクロ写真が100枚貼られている。写真の下に一行の文字が書かれたプレート、その下に30センチ四方くら…
白河法皇 (NHKブックス): 中世をひらいた帝王 美川 圭著 : 日本放送出版協会 : 2003.6 ---------------------------------------- わたしの中世史に関する知識なんて高校教科書程度のもの。 そんなわたしにもわかるように、この本は様ざまな工夫を凝…
ヘルタースケルター 岡崎 京子著 : 祥伝社 : 2003.4 -------------------------------- いま流行りのプチ整形なんてもんじゃない、全身整形でサイボーグのように作り上げられたタレント・りりこ。彼女の崩れていくからだ・美への執着とあせりが見事に描か…
映画「惑星ソラリス」、そのリメイクの「ソラリス」、そして原作の「ソラリスの陽のもとに」 この3作はいずれもよかったが、なかでも一番感動したのはタルコフスキーの「惑星ソラリス」だ。映像も美しく、心の奥底を震わせる深い内容をもっていた。タルコフ…