吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~

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 95%の視力を失いながらもその事実を隠して五つ星ホテルの研修生になった若者の実話をもとに作られた。これが実話というのはただ驚くしかない。

 スリランカ人の父とドイツ人の母の間に生まれたサリヤは15歳の頃に視力をほとんど失ってしまう。しかし彼はホテルマンになりたいという夢を諦めきれず、目がほとんど見えないことを隠して一流ホテルの研修生に採用された。そして過酷な研修の最後に筆記と実技の試験が待ち受けているのだが、サリヤ(愛称サリー)はそこまでたどり着けるのだろうか。

 コメディなのだが、ほとんど目の見えないサリーの一挙手一投足に観客はハラハラするというスリルもたっぷりだ。主人公を演じたコスティア・ウルマンはドイツ人とインド人のダブルなので、見た目もまさにぴったり。そのうえイケメンなのでサリーが女の子にもてるという設定に説得力がある。

 サリーは頭がよく、心が優しいために周囲に助けてもらうことができる。彼は一緒に研修生として採用されたお調子者のマックスとなぜか意気投合して、というよりもマックスを助けてやって、二人は仲良くなる。落ちこぼれのマックスにサリーが救いの手を差し伸べることによって今度はマックスがサリーを助けるようになる。サリーの目が見えないことを知った少数の人たちは誰もがサリーを心配し、見守り、そっと手助けするようになる。それもこれもサリーが尋常ではない努力を重ねていることを知っているからだ。

 わたしはこういう話に弱い。ハンディのある人が驚異の努力の末に周囲に支えられ、自分もまた周囲の人たちを助けている、そういう支え合いの理想を描いた作品はストレートにわたしの琴線に響いてくる。

 ただし、みんなに助けてもらったからといって仕事がうまくいくほどにホテルマンの仕事は簡単ではない。厳しい指導教官にイジメとも思えるほどの課題を押し付けられ、しまいにはサリーも癇癪を起す。この指導教官のキャラクターは当然と言えば当然だ。五つ星ホテルの副支配人と思しき彼は、研修生を厳しく指導するのが仕事なのだから。

 サリーはとある女性の声を聴いただけで彼女に恋をする。何度かデートも重ねてうまくいように思えた二人だったのに、やはり目が見えないことがばれた途端に破局が訪れてしまう。恋にも仕事にも疲れてしまったサリーに明るい未来はあるのだろうか?!

 サリーの研修生ぶりは多くの失敗だらけで、これではクビだろふつう、と思われることが続出する。最後の最後まで画面から目が離せないし、観客はサリーを心から応援しながら映画を見ている。自分ならここでめげるだろうとか、自分ならとっくに本当のことを話すのになあとか、わが身に引き付けてサリーの人生の分かれ道を共に歩む気持ちになる。

 主人公サリーが書いた自伝が原作という。それも読んでみたいと思った。(Amazonプライムビデオ) 

2017
MEIN BLIND DATE MIT DEM LEBEN
イツ Color 111分
監督:マルク・ローテムント
製作:タニア・ツィークラー、ヨーコ・ヒグチ=ツィッツマン

原案:サリヤ・カハヴァッテ
脚本:オリヴァー・ツィーゲンバルク、ルート・トマ
撮影:ベルンハルト・ヤスパー
音楽:ミヒャエル・ゲルトライヒ、ジャン=クリストフ・“ショーヴィ”・リッター
出演:コスティア・ウルマン、ヤコブ・マッチェンツ、アンナ・マリア・ミューエ ラウラ、ヨハン・フォン・ビューロー