吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ヒットマンズ・ボディガード 

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 どうせくだらないアクション映画なのだろうと高を括って見始めたところ、確かに単なるアクション・コメディ映画なのだが、これがまた面白いから油断ならない。セリフもけっこう含蓄があって、なかなか見せるではないか。で、続編もできているという。

 さて物語は。ベテラン殺し屋ダリウス(サミュエル・L・ジャクソン)がベラルーシの独裁者デュコビッチ大統領を裁く国際法廷の証人になったため、証人保護のための特別警護人マイケル・ブライスライアン・レイノルズ)にガードされることになったが、デュコビッチが放った大勢のヒットマンがダリウスを狙って次々と襲いに来る、さて見事に逃げおおせるのか!という荒唐無稽なアクション映画。

 設定は荒唐無稽な割にベラルーシという実在の国名と架空の大統領(これ、モデルはルカシェンコ大統領だね)が登場してしかもけっこう怖い。だって演じているのがゲイリー・オールドマンなんだから。そして、サミュエル・L・ジャクソンライアン・レイノルズという組み合わせが絶妙に面白くて、よくこの共演が実ったなと感心する。

 ライアン・レイノルズは童顔だから実年齢よりかなり若く見える上にさらにこの映画では凄腕のくせに気弱なボディガードを演じているからとっても可愛い。サミュエル・L・ジャクソンは思い切り楽しんで演じていることがよく伝わるコメディアンぶり。彼が演じるダリウスには溺愛する妻ソニアがいて、このソニアがこれ以上ないぐらいにぶっ飛んでいる。ダイナマイトボディの濃い美人の上に腕が立ち、しかも残忍。あまりに濃いキャラクターばかりが登場するから、見ていて飽きない。ドタバタばかりでもなく、ダリウスが時々名言至言箴言を繰り出すのもなかなか味わいがある。これ、2時間続けてみたらしんどいかもしれないけれど、わたしはiPadで小刻みに見たから楽勝だった。

 本作は銃撃戦とカーチェイスに力が入っている。車を壊しまくるこの手の映画はもうそろそろやめたほうがいいのではないか、もったいない。ロスゼロ社会を目指しましょう。

 こんなに金をかけて作った映画を配信のみで劇場でかけないなんて、もったいないことこの上ない。(Netflix)   

2017
THE HITMAN'S BODYGUARD
アメリカ  118分
監督:パトリック・ヒューズ
脚本:トム・オコナー
撮影:ジュールズ・オロフリン
音楽:アトリ・オーヴァーソン
出演:ライアン・レイノルズサミュエル・L・ジャクソンゲイリー・オールドマンサルマ・ハエック、エロディ・ユン

アルピニスト

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 わたし自身は絶壁をよじ登るなんて絶対にしたくないし、登山もそれほど好きではないのだけれど、超人的な登山家の映像を見るのはなぜか好きだ。これはどういうことだろう。自分では全くジョギングすらしない人でもマラソンや駅伝は一生懸命見たり応援したりするだろう。自分ができないことを見せてくれる人たちへの憧れなのか代償行為なのか、こういうのは心理学的には既に解明されている心理なのかもしれないが、とにかくこの手の映像は見ていて飽きない。

 飽きないということは、逆にいえば同じような映像を見せられ続けるといつか飽きてくるということでもある。そうなると、クライマーたちはしのぎを削ってどんどん難しい壁に挑戦するようになる。こういうスポーツは過激化の一途をたどるしかないのではと危惧する。命を懸けてでも、「誰も登ったことがない山に挑戦したい」という気持ちが湧いてくるものなのだろうか。

 して、この映画はほとんど正気とは思えないようなそそり立った壁を命綱なしでよじ登る人々を追ったドキュメンタリー。こういう映画を見るといつも思うことだが、この断崖絶壁を登る登山家もすごいが、これを撮影するカメラはもっとすごくないか? どうやって写したんだろう? おそらくカメラは上からロープを使ってぶら下げたか、登山家本人のヘッドセットに仕込んであるか、またはその両方だと思うのだが、よくわからない。

 この映画の魅力は、超人的な若者クライマーであるカナダのマーク=アンドレルクレールの母親や恋人が登場することだろう。ADHDと診断されたマークを型にはめることなく自由にさせた母親の卓見に驚く。恋人と一緒に楽しく壁をよじ登るマークがほほえましい。

 ドキュメンタリー「フリーソロ」を見た時も驚愕したが、今回はそれ以上の驚きに満ちた作品だった。栄誉を求めず、SNSに投稿することもなくただひたすら絶壁にへばりついている若者ってすごくない? それだけにラストに至る衝撃には言葉を失った。(Amazonプライムビデオ)

 2021
THE ALPINIST
映画ドキュメンタリー
アメリカ  Color  93分
監督:ピーター・モーティマー、ニック・ローゼン
製作:ベン・ブライアンほか
撮影:ジョナサン・グリフィス、オースティン・シアダク、ブレット・ローウェル
音楽:タートル
出演:マーク=アンドレルクレール、ブレット・ハリントン、アレックス・オノルド、ラインホルト・メスナー、バリー・ブランチャード

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

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 巻頭からいきなりのアクションアクションでインディ・ジョーンズの健在ぶりを発揮! と思ったけれど、これは第2次世界大戦末期の若き日のインディの姿であった。時代はそれから四半世紀下って1969年。「現在」のインディは引退直前の70歳の老教授である。いかにも疲れた風情で最後の講義を行っている。学生たちは課題をやる気なく、インディは「今度の試験に出すぞ」と弱弱しい声で学生を脅している。

 冒頭のシーンの若いハリソン・フォードは全部CGで描いたのかと思ったが、古い映像をつないでCGで修整し、声はアテレコしたそうだ。そんなうまくできるものなのか、驚くべし。確かに姿かたちは若いけれど、インディの声が老人くさいので違和感があった。

 既存のシリーズを全部映画館で見ているわたしなのに(しかもDVD3巻セットを購入済み)、我が息子たちと一緒に繰り返し見て楽しんだこの物語のことも細部はすっかり忘れていたことに気づいた。次々と展開する場面を見ているうちに、「ああ、こういうシーンがあったな」「そうそう、インディは蛇が嫌いだった」などと思い出したが、主要なキャラクターのことをすっかり忘れているではないか! もういかんわ。

 もともとありえない物語を楽しむ映画だが、ここはもう「ありえ~ん!」の100連発。最後のタイムスリップなんて、もはや理屈はどうでもいいんだろうなあと思わせる楽しさがあった。そして、これまでの作品ではヒロインが添え物的だったのが、今回はヒロインのヘレナが若くて強くてずる賢いというキャラクターだったのが現代風で面白く感じた。すでにインディとヘレナは親子ほど歳が離れているから、ロマンスも生まれようがない。

 わたしとしては、トーマス・クレッチマンを久しぶりに見られたのがよかった。だいぶ年取ってしんどそうな感じがしたけれど、相変わらずナチスの軍人役が似合っている。マッツ・ミケルセンデンマーク人なのにドイツ人のマッドサイエンティスト役が似合っているのは苦笑するしかない。

 この映画はオールドファンのためのものだとつくづく思う。映画館の中は高齢者が目立ち、インディも老人となった。しかも胸の内に大きな悲しみを抱く老人に。

 「過去の時代に戻れるならどこがいい?」というヘレナの質問に答えたインディの悲しい瞳が忘れられない。そして、ラストシーンの静かな感動は、ある程度の年齢がいった観客にはしみじみと伝わるものだろう。

 まあしかし、何年たってもナチスは悪者で、つまりはアメリカの正義は揺らがないということなのだろう。

2023
INDIANA JONES AND THE DIAL OF DESTINY
アメリカ  Color  154分
監督:ジェームズ・マンゴールド
製作:キャスリーン・ケネディほか
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグジョージ・ルーカス
脚本:ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワースデヴィッド・コープジェームズ・マンゴールド
撮影:フェドン・パパマイケル
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ハリソン・フォードフィービー・ウォーラー=ブリッジアントニオ・バンデラスジョン・リス=デイヴィストビー・ジョーンズボイド・ホルブルックマッツ・ミケルセン

わたしたちの国立西洋美術館

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 東京は上野公園にある国立西洋美術館は、日本で唯一の西洋美術史が俯瞰できる美術館だ。著名な建築家ル・コルビュジエが設計した建物は、2016年に世界遺産に登録されたのを機に創建当時の姿に復元されることとなった。カメラは工事が始まる直前の2020年6月からリニューアルオープンする2022年6月まで、工事中の美術館の裏側を記録し、学芸員たちの仕事ぶりを取材する。

 映画では淡々と静かな音楽は流れるけれど、最小限の字幕が「章」の区切りに使われるだけで、ナレーションはない。その作風はフレデリック・ワイズマン監督を想起させる。実際、ワイズマンの「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」のような映画を西洋美術館を舞台に作ってみたかったと大墻監督は言う。

 国立西洋美術館といえば、松方コレクション。もともと松方幸次郎のコレクションを収蔵するために作られた美術館である。松方は自身のコレクションリストを作成していなかったため、その再現のために情報資料室長の川口雅子さんが世界中から資料を集めた。それらがきちんとファイルされている場面が映ると、私なぞはすっかり嬉しくなる。美術館の中に図書室があることは知られているかもしれないが、そのスタッフがどれだけ優れた仕事をしているかはほとんど知られていないだろう。美術館を動かしているのは学芸員だけではないのだ。

 本作では、修復担当、企画担当、研究者、のみならず美術品輸送専門業者、ジャーナリストや海外在住の展覧会プロデューサーも登場する。来館者からは見えない多くの専門家が美術館を支えているのだ。”休館中は暇” なのではなく、その時にしかできない多くの仕事が待ち受けている。

 映画の冒頭では屋外の彫刻が丁寧に梱包されてクレーン移動される様子が映り、ラストではその梱包が解かれるのだが、頭に手ぬぐいを巻いているようにも見えるその姿にはどこかしらユーモアが漂う。ロダンの「考える人」も「カレーの市民」も大きな画面で、それも普段の展示では見ることのできない角度から見られることは驚異だ。

 国立美術館の予算が半減され、企画展が今後開けなくなるかもしれないという危機的状況が館長たちから語られるとき、この国の文化政策の行方を案じざるをえない。芸術が金とバーターされる風潮は、社会が豊かさを失っていく暗闇への一歩ではなかろうか。

 ところで、映画のなかでは松方幸次郎のことはあまり説明されなかったのだが、彼は川崎造船所(現・川崎重工業)の初代社長であり、1919年の労働争議の最中に突如として8時間労働制を宣言し、世間を驚かせた。その記録冊子は日本労働ペンクラブ「労働遺産」に認定され、神戸大学付属図書館と大阪公立大学杉本図書館が1冊ずつ所蔵している。おそらく現存するたった2冊だろう。また、神戸ハーバーランドに「八時間労働発祥之地」記念碑が立っている。こちらは1993年に兵庫労働基準連合会が設置したもの。松方幸次郎が遺したものは様々な形で現在に引き継がれている。

 急いで追記すれば、戦前最大の争議と言われた神戸三菱・川崎造船所争議のときの社長も松方幸次郎である。その後、経営破綻した川崎造船所を立て直すためにコレクションを売却した、波乱万丈の人生といえよう。

(機関紙編集者クラブ「編集サービス」2023年6月号に掲載した記事に加筆)

 #ミュージアム映画

製作・監督・撮影・録音・編集:大墻敦
録音・照明:折笠慶輔

録音:梶浦竜司

音楽:西田幸士郎

日本/105 分

 

The Son/息子

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 父と息子、孫という3代にわたる葛藤が描かれる、重い映画。ポスターにはヒュー・ジャックマン演じる父親と息子が哄笑している場面が使われているから、明るい結末が予想されるのだが、実際には大変つらい映画だった。

 物語は。高校生ニコラス少年の離婚した父親ピーターは著名な弁護士で、次は政治の中枢への進出を希望しておりその希望が叶おうとしている。今、ニコラスは母ケイトと暮らしているのだが、ケイトが「ニコラスが不登校になり、どうしていいのかわからない。ニコラスを預かってほしい」と元夫ピーターを訪ねるところから映画は始まる。とりあえず息子を元夫に預けることとなり、ケイトはほっとした表情をみせる。母子家庭とはいえそれなりに裕福に暮らしているニコラスとその母なのだが、ニコラスは学校へ行く意味を見出せず、周囲となじめないでいたのだった。

 そんなニコラスが父の再婚後の家庭で一緒に暮らすことになる。この瞬間からなにやら不穏な空気がじわじわと漂い始める。父の再婚相手は若く美しいベスで、赤ん坊を主産して間もなかった。そんな父の家で同居を始めたニコラスだが、またしても不登校になっていたことが発覚する。父ピーターは怒り、ニコラスを問い詰める。やがてニコラスは精神に不調をきたして入院することとなるのだが……。

 裕福なインテリ階級の親子三代にわたる矛盾と葛藤は、ピーターの父であるアンソニー・ホプキンスが登場する場面で頂点を見せる。アンソニー・ホプキンスの出番はほんの一場面なのに、その存在感が画面を圧倒している。その重圧、その威厳、その辛辣さ。愛情よりも上昇志向だけで凝り固まったような男、元上院議員のアンソニー。この場面で、「なるほど、元凶はこのじいさんか」と観客は大いに納得するだろう。厳しい父に育てられ、父のようになりたくないと思っていたピーターは結局のところ、自分が同じような父親になって息子を圧している。そのことに気づいてももはや修正することもできないでいる。

 何回か、伏線が張られて不気味な印象を与えている場面があるのだが、最後にそういうことだったのかと悲痛な思いで納得するのもつらい映画だ。

 ニコラスを演じた新人が不安と焦燥にかられる少年の表情を見せて、素晴らしい演技を披露している。ピーターの後妻ベスを演じるヴァネッサ・カービーが美しくかつ不必要に肌を露出して色っぽい。17歳のニコラスには刺激が強すぎるだろうに。全編にわたってあらゆる場面に不穏な空気をそっと忍ばせる手腕はさすがだ、フロリアン・ゼレール監督。ただし、一か所だけ不自然な演出があったことが気になる。それは最後に近い場面。「次に起きるあることを待っている」と思わせるような無駄に長い0.5秒ほどの沈黙があった。映画ならここはカットするべきなのだが、カットすると流れが途切れるからそのままワンカットで映したかったのだろう。いかにも舞台劇らしい。

2022
THE SON
イギリス / フランス  Color  123分
監督:フロリアン・ゼレール
製作:ジョアンナ・ローリーほか
原作戯曲:フロリアン・ゼレール
脚本:フロリアン・ゼレール、クリストファー・ハンプトン
撮影:ベン・スミサード
音楽:ハンス・ジマー
出演:ヒュー・ジャックマンローラ・ダーンヴァネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、ヒュー・クァーシー、アンソニー・ホプキンス

ユーリー・ノルシュテイン傑作選

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 ロシアのアニメ作家ユーリー・ノルシュテインの1960年代から70年代にかけての短編を集めて日本で修復したという「傑作選」。アニメの芸術性の高さに驚嘆した。特に二つ目の動く宗教画とも呼ぶべき「ケルジェネツの戦い」は、ひとつずつのシーンがそのまま額縁をつけて飾っておきたいようなハイレベル。

 この傑作選は6つの作品から成る。1つ目はロシア革命。3つ目以降はロシア民話。1つ目のレーニンの演説とかなかなか血沸き肉躍るものがあった。絵がとにかく味わい深くて、基本的に絵本が動いている、という感じの画風だけれど(切り絵アニメだというが、切り絵と思えない滑らかさ)、レベルが高いので見とれてしまう。とはいえ、童話・民話をいくつも聴かされると飽きてくる。その点、82分と再生時間が短いので助かる。(Amazonプライムビデオ)

収録作品:

25日・最初の日

ケルジェネツの戦い

キツネとウサギ

アオサギとツル

霧の中のハリネズミ

話の話

 

ノートルダム 炎の大聖堂

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 文化財保全する意義を語る講義のネタにと思って見た映画なのだが、予想以上に面白く、胸が熱くなる作品だった。

 「タワーリング・インフェルノ」「バックドラフト」「バーニング・オーシャン」といった、消防士や火災を扱った映画はいくつか見てきたが、これらハリウッド映画には必ず固有名詞を持ったヒーローが登場する。それに対して今度のフランス映画は群像劇であり、特定のヒーローにスポットが当たることはない。特定のヒーローが登場しない映画には感情移入が難しいのだが、この映画はその点、それぞれの人々の背景が想像できるし、全員が「役割」を持って登場しているので、「この立場の人間ならこう考えていることだろう」といった内面が容易に予測できる。

 火災が起きた原因は工事現場のタバコの火の不始末だとか電線のショートだとか言われていたようだが、今のところ不明ということになっている。映画も、原因については確定的な情報を流さないが、この二つが同時に起きたようなニュアンスで映画かれている。しかし、火災が初期で消火されていればこのような建物被害を生むことにはならなかったであろうことは想像に難くない。多くの悲惨な事故がいくつもの手抜きや失敗が重なって起きたことと同じく、この火災もいくつもの要因が重なっていることが見て取れる。

 では問題は、起きてしまった火災にどう対処するか、である。消防隊がどのように現場で奮闘したのか、学芸員はどのようにして聖遺物を救出したのか。実にスリリングな状況が次々と画面に描かれ、一時も息をつけない。

 そしてマクロン大統領登場。実際の本人映像が何度も映る。当夜予定していた演説を急遽中止して現場に急行したマクロンを見て、わたしは「やってる感を出すためにノコノコ現場にやってきたのか。はっきりいって邪魔ちゃうのん?!」と心の中で叫んでいた。それでなくてもパリの道路は大渋滞して消防車が通れずに大苦戦しているというのに!

 この映画ではSNSを通じて大量の映像を集め、編集している。ドキュメンタリーの手法を随所で使っているため、大変臨場感がある。実映像とドラマ再現部分を巧みに組み合わせている場面などは、カメラと編集のお手並みがよいので感心した。

 音楽はジョーン・ウィリアムズのようなハンス・ジマーのような大仰なものなのだが、なかなかよかった。音楽が相当に盛り上がりを助けていて、演出は全体にとてもわかりやすい。

 この映画は、それぞれの任務・業務に懸命に尽くす人々を描いたという点では「労働映画」とも呼べるだろう。実に見ごたえがあった。

2021
NOTRE-DAME BRULE
フランス / イタリア  Color  110分
監督:ジャン=ジャック・アノー
製作:ジェローム・セドゥ、アルダヴァン・サファイー
脚本:ジャン=ジャック・アノー、トマ・ビデガン
撮影:ジャン=マリー・ドルージュ
音楽:サイモン・フラングレン
出演:サミュエル・ラバルト
ジャン=ポール・ボルデ
ミカエル・シリニアン
ジェレミー・ラウールト