吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

NOPE ノープ

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 怖いのか怖くないのか微妙な話。笑えるのか笑えないのかも微妙なところ。相変わらずジョーダン・ピール監督は常識を破っていく作風に熱心だ。

 物語は、西部劇を思わせるようなロサンゼルス郊外のド田舎の牧場が舞台になっている。映画撮影用の馬を飼育している牧場では、オーナーである父が事故死した後を継いだ息子OJと娘エメラルドは経営がうまくいかず苦渋していた。そんなとき、謎の物体が空に浮かんでるらしいと気づいた兄妹は、これを撮影してバズり動画をアップすることによって一儲けしようと考える。果たしてこの謎の未確認物体の正体はなんなのか?! というSFホラー映画。

 映画はテレビドラマを撮影中のスタジオで起きた惨劇から始まる。出演者がほぼ全員猿によって惨殺されるという事故が起きたのだ。これがこの映画の第一のチェックポイント。次は、このドラマの唯一の生存者、当時は小学生だったアジア系男子が成長して、今ではOJたちの牧場の近くに遊園地を経営しているというのが第二のポイント。

 猿の目を見てはいけない、目が合ったら猿は襲ってくると言われているように、この不思議な未確認物体を見てはいけない。なんでいけないのかはわからないが、とにかく "Don't look up! "なのだ。でもやっぱり人間は好奇心の塊だから、不思議なものがあればついつい凝視してしまう。で、その結果は恐るべき惨劇が待っている。

 「見てはいけない」、これがこの映画のなによりも大きなテーマだ。見るという行為の呪縛的な魅力に人は抗えない。だからわたしたちは映画という見世物に惹かれて毎日のように見てしまう。ところが、この映画では人間に見られた未確認物体が逆襲に出るのだ。動画を撮ろうとした者たちをこの謎の物体は許してくれないし、見世物にしようとした興行主も許されない。

 本作の主人公兄妹は黒人で、惨劇が起きたテレビドラマの唯一の生存者がアジア系で、主人公たちの指示で動く若者は白人で、彼らに同調して協力するベテランカメラマンは白人。この配置が絶妙で、よくよく考えてこうなっているのか、単なる偶然なのかが判然としないところが面白い。映画も後半になってくるとだんだんいい加減な展開になり、アイデアが尽きたのか飽きたのか予算がつきたのか、とにかく謎の物体の正体が露わになって全部が見えたときには唖然として笑いそうになった。もうこうなったらこんなものの正体はどうでもいいのか、ピール監督!

 この訳の分からなさがこの監督の真骨頂なのかもしれない。なんといっても監督デビュー作「ゲット・アウト」の衝撃がすごかったから、あとは迷走気味。しかしこの映画に関しては観客を退屈させない手腕を見せてくれている。    

2022
NOPE
アメリカ  Color  131分
監督:ジョーダン・ピール
製作:イアン・クーパー、ジョーダン・ピール
脚本:ジョーダン・ピール
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
音楽:マイケル・エイブル
出演:ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユァン、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレアキース・デヴィッド

キャメラを止めるな!

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 え? まさか?! ほんとにまさかの驚き。こんな映画(失礼!)をフランスでですよ、しかもアカデミー賞を受賞しているような監督がですよ! リメイクするわけ? それだけで笑った。笑うだけでは飽き足らず、映画館まで見に行ってしまったではないか。わたしもアホやねぇ。

 で、前半の「ダメダメ映画」の部分はほんとうにダメで、本家本元の日本映画よりダメだった。これは、プロが本気でダメな映画を作ったらめっちゃダメな映画になるっていうこんがらがった状況が出来しているのだ。しかも、監督は「本当にダメな映画だったらフランスの観客が席を立ってしまわないか心配だから、そこはダメさ加減をうまく調整して…」みたいなことをインタビューで述べていた。いやあ、ほんま、日本と違ってフランス人は簡単に席を立ってしまうそうだからねえ(チケットが安いから金は惜しくない)。

 しかし日本のオリジナル作をそのままなぞったとはいえ、細部ではやはりフランス映画と思わせるものがある。なんといっても台詞が多い。そしてその台詞が妙に理屈っぽい。「腐った資本主義! グローバリズム反対!」みたいな台詞が普通に(いや、この場合は普通じゃないな、ゾンビが言うんだから)どんどん出てくるっていうのが笑える。

 わたしは日本版を見ているから種明かしを知っているだけに、新鮮な驚きはなかったのだけれど、日本側のプロデューサーがそのまんま竹原芳子が演じているのがもう、たまりません。彼女が画面に出てくるだけでほとんどお化け! 役者がみんな嬉々として演じているのが何よりも楽しかった。

 そうそう、こんな映画(失礼!)なのに劇伴が全力でついていて、アカデミー賞受賞作曲家のアレクサンドル・デスプラが素晴らしい音楽を聞かせてくれる。

2022
COUPEZ !
フランス  Color  112分
監督:ミシェル・アザナヴィシウス
製作:ノエミ・ドゥヴィドほか
脚本:ミシェル・アザナヴィシウス
オリジナル脚本:上田慎一郎
撮影:ジョナタン・リッケブール
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:ロマン・デュリスベレニス・ベジョ、竹原芳子、グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ、シモーヌ・アザナヴィシウス

地下室のヘンな穴

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 こんな変なタイトルの映画が公開されるなんて、それだけでもぞくぞくするではないか。配給のロングライドはいつもいい映画を選んでくれていて、たいそうありがたい。今回もこの映画をよくぞ買い付けてくれました! しかしもうちょっと頑張って宣伝してほしいんですけど。

 けっこう深いじゃないですか、この映画。いかにもフランス人に受けそうな感じ。でも別に理屈っぽくないし、すごく深い話をさりげなくわかりやすく提示しているんだから、これはもう買いですよ、買い。

 日本人が登場する場面もかなり笑いのツボ。あきらかに日本人ではない役者に演技させているのでけったいな日本語だったりするのだが、日本人医師はネイティブかな。

 で、このけったいな物語はというと、とある郊外の一軒家の地下室には穴が開いていて、蓋をあけて中に入ると、時間が12時間進んでしまい、肉体は3日若返るという。それがこの家の売りなんだと説明する不動産会社の営業マンにそそのかされて、その家を買ってしまった中年夫婦の悲喜劇。

 妻マリーは3日若返るという言葉に浮き浮きして、すっかり若返りの虜。しかしたとえば10年分若返るためには1217回その穴に入らないといけない。その間に失う時間は14604時間(608日分)だ。つまり、大事な人と過ごす時間やその他の時間を14000時間以上犠牲にして見た目だけ10年若返るわけ。それでいいのか?!

 20年若返ろうとしたらさらにその2倍の回数を穴に入っていく必要があるから、趣味や旅行に費やす時間もほとんどなくなり、生きている時間の大半を穴の出入りに使うことになってしまうのではなかろうか。

 この映画はタイムスリップがキーであり、映画自体が時間軸を自在に行き来する。そして、若返り願望が昂じていくマリーを寂しく見つめる夫アランがなんだか気の毒。そのアランの友人かつ勤め先の社長夫婦もけったいな人たちで、社長のジェラールはなんと、驚くべきことに……(以下ネタバレなので自粛)ということをアラン夫婦に告げる。これがまた最高傑作に笑うしかない。

 よくこういう話を思いつくものだと感動してしまうカンタン・デュピュー監督。若さに拘泥する人びとは結局大事なものを失ってしまうという、わりとわかりやすい教訓が描かれているのだが、その描き方が実に大胆で他に例を見ない。映画の後半はほとんどフィルムの早回しのように展開していき、その演出方法もまた小気味よい(手抜きという批判もある)。ラストシーンのぞっとする怖さは格別だ。最後までシュールな作品。

 次はデュピュー監督の「ラバー」「ディアスキン 鹿革の殺人鬼」をDVDなどで見たい。わが息子Y太郎によれば、「Mandibule」という映画がものすごく面白い、ぶっ飛んでいるということだが、残念ながらこれは今のところ日本で見ることができない。

2022
INCROYABLE MAIS VRAI
INCREDIBLE BUT TRUE
映画ドラマコメディ
フランス / ベルギー  Color  74分
監督:カンタン・デュピュー
製作:トマ・ヴェルアエジュ、マチュー・ヴェルアエジュ
脚本:カンタン・デュピュー
撮影:カンタン・デュピュー
音楽:ジョン・サント
出演:アラン・シャバ、レア・ドリュッケール、ブノワ・マジメル、アナイス・ドゥムースティエ

ブレット・トレイン

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 この映画はフランス在住の愚息Y太郎(31歳)が先に見て、「アホすぎて疲れた。二日酔いのタランティーノが書いた脚本を園子温が撮ったみたいな映画やった。見るだけでIQが30くらい下がる」という感想を送ってきたので、逆にすごく見たくなったのであった。

 で、いそいそと映画館へ。「ばか映画もバカがすぎるとあかんわ」とY太郎にこき下ろされた作品だが、わたしは十分楽しんで帰宅。早速Yに「ブレットトレイン、めっちゃ面白かったやないの」とメッセージを送ったら「箸が転んでも笑いそうやな(笑)」と返された。

 いやほんま、リアリティ0ミリの映画って気持ちいいわー。殺し屋たちが無駄におしゃべりをするところなんか、完全にタランティーノの「パルプ・フィクション」。今回のおしゃべりのネタは「きかんしゃトーマス」で、これ、著作権料を払ったんかな気になるところ。

 原作が伊坂幸太郎なのに、原作と違って登場人物はあらゆる肌の色の多国籍の役者が演じていてすごく面白い。ブラッド・ピットが主役っていう時点でどんだけ原作から逸脱するんかと期待に胸が膨らむ腹も膨らむ。原作未読のわたしにとっては逸脱度を測る巻き尺がないのだが、それでも映画を見ながら、「原作はどうなってたんやろ、後で確かめようっと」と興味津々だったし、とにかく最後まで全然飽きずに見ていた。

 で、ストーリーはというと、小者の殺し屋レディバグ(テントウ虫)が謎の女性マリアから指令を受けて、東京駅発の超特急に乗り込む。彼のミッションはブリーフケースを見つけて盗み、列車を降りること。それは1分で終わるはずだったのに…。次から次へと難問奇問が立ち現われ立ちふさがり、レディバグは列車から降りられない。そうこうするうちにいつの間にか列車内は殺し屋だらけになる。なぜか3組の殺し屋ストーリーが並行して絡まりあい、死体だらけになっていく。という大混戦もの。

 流血!銃撃!乱闘!毒殺!アクションアクションアクション! その合間にきかんしゃトーマス愛を語る愛嬌たっぷりの殺し屋たちのおしゃべりが延々と続く。列車には怪しい女子学生が乗り込んでいて残忍にもスパスパと人殺しを計画し実行に移す。

 という実に恐ろしいお話なのだが、ほぼコメディなので笑っているうちに気が付けば二時間が過ぎている。最後はちょっと怖すぎたが(やりすぎちゃうのん)、こういう映画はあほらしくてよろしい。ものすごく金がかかっていることだけは確かで、出演陣は豪華で、チャニング・テイタムが出てきたときには驚いた。そういうチョイ役でこの人を使うのね、もったいない。

 ストーリーのあほらしさを補って余りあるキャラクターの面白さが卓抜で、アクションの見せ方も実に小気味よい。ブラッド・ピットもそろそろ還暦のはずだがアクションシーンの見せ場をしっかり演じているところはさすがにプロだ。伏線がいくつも回収されていくところも大変気持ちよい。なんにも考えずにただ見ているだけの映画というのもたまにはよろしいなあ。

 ちなみに、フランスの映画料金は安いので、つまらない映画のときはフランス人は簡単に席を立って帰ってしまうそう。カネより時間が惜しいというわけね。Yもつまらない映画は20分以内に退席するらしいが、今回この映画を見に行った第一の目的は避暑だったので、最後まで見ていたという。彼とそのつれあいが住むアパルトメントにはエアコンが付いていないから、今年の猛暑は地獄だったらしい。街には誰も歩いておらず、命の危険すら感じたという。ヨーロッパの異常気象はほんとうに尋常ではない。ゴダールもこんな異常気象に人類滅亡の道を見たのか、絶望して自死したんじゃないかという解釈もありえるかも? 

2022
BULLET TRAIN
アメリカ  Color  126分
監督:デヴィッド・リーチ
製作:ケリー・マコーミック、デヴィッド・リーチアントワーン・フークア
原作:伊坂幸太郎 『マリアビートル』(角川文庫刊)
脚本:ザック・オルケウィッツ
撮影:ジョナサン・セラ
音楽:ドミニク・ルイス
出演:ブラッド・ピットジョーイ・キングアーロン・テイラー=ジョンソン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、アンドリュー・小路、真田広之マイケル・シャノン、ベニート・A・マルティネス・オカシオ、サンドラ・ブロック

ゴダール逝く

 TwitterFacebookには既に投稿した記事、こちらにも再掲。
 ゴダール死去の報にそれなりの衝撃を受けたのだが、もう91歳の巨匠はいつ死んでも不思議はない。人はいつか逝く。しかしそれがどうやら自死だったらしいと知ってもっと衝撃を受けている。
 スイスは安楽死を合法化しているので、ゴダールはその道を選んだようだ。
 ニュースソースはこちら。記事の中では、「彼がとても疲れていた」と書かれている。

レミニセンス

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 「時よ止まれ 君は美しい」はゲーテの言葉だった。そんなタイトルのドキュメンタリー映画も作られた。そして、「時よ止まれ」という切羽詰まった思いにかられる人々も少なくないのではと思う。至福の時間が流れて消えていく、その刹那を愛おしく思うとき、人は「このまま時が止まってくれたら」と願う。この映画は、そんな「美しい思い出」にとらわれの身となる男の悲しい物語。

 近未来、地球温暖化のせいで町は水浸しになり、戦争のせいで高層ビルは荒廃している。そんなマイアミの大都会で「記憶をたどることのできるサービス」を売っている男、ニックがいる。彼の商売はビルの片隅の一部屋で行われ、アシスタントとしてワッツという女性が雇われている。

 かつて大都会だった片鱗を残している、いまや半ば水没しているようなマイアミの街を舐めていく鳥瞰カメラが素晴らしい。このプロダクションデザインが映画全体の雰囲気をノワールっぽくしている。しかし「ブレードランナー」のような底暗さはないし、光と暗闇の対比も美しい。

 ニックが扱っている記憶再現装置は、クライアントが水槽に横たわって電極ヘッドセットを頭に付けて眠ったまま過去の記憶をたどっていくというもの。さらにクライアントが思い起こしていくその過去の風景がそのままホログラムのように室内に再現されて外部の人間もそれを見られるようになっている。クライアントの過去をたどる道案内役がニックで、彼はクライアントに過去を思い出させるべく話しかけていく。この映画そのものがこのニック、つまりヒュー・ジャックマンのナレーションに導かれているから、映画全体がニックの視点で観客に指し示されていく。

 そんなニックの職場にある日、メイという美女が現れる。彼女は失くした鍵を探していて、その鍵をいつどこで失くしたかを思い出したいという。そんな彼女の記憶をたどるニックは、たちまち彼女に恋をする。不思議なことに当人の記憶をたどっているはずなのに、見えるのは主観風景ではなくメイ自身が映っている記録。なんでこんな矛盾が? と興醒めになりかけたところでニックがこのからくりを説明する。なるほどねえ、そういう理屈か。でも納得できない。ニックとメイは間もなくして蜜月時代を迎える恋人同士として仲睦まじく過ごすようになる。だがメイはある日忽然と姿を消す。

 やがて検察からある事件の捜査のために被疑者の記憶をたどってほしいという依頼を受けたニックは、その被疑者の記憶映像にメイが映っていることに気づく。彼女の過去にある忌まわしい事件や組織犯罪が見えてきた。突然行方不明になったメイを探そうとやっきになるニック。

 漸次、事件の全貌が明らかになっていくのだが、ストーリーそのものは実は陳腐なヤクザ映画だと言ってしまえるようなものだ。しかし、ここに「記憶と記録」というテーマを何重にも張り巡らせたリサ・ジョイ監督のオリジナル脚本が素晴らしかった。

 記憶は正確に再現できるものなのだろうか? 人の記憶は認知の歪みによる間違いが起きるし、そもそも集中と選択の機能が働き、「実際に起きたこと、事実そこにあったもの」すべてを再現できるわけがない。いま現実に目の前に見えているものすべてをあなたは、わたしは、すべて説明することができるだろうか? 目の端に見えているものは当然にも焦点がぼけているはずだし、何か気になるものがあればそちらばかりが見えているはずだ。それなのにニックの記憶装置はそれらを見事に再現することになっている。当人が意識しなかったことまで。そんなことが可能ならば、それこそ意識の三重構造の中に降りていけるはずだ。このテーマは「インセプション」にも通じるものだが、映画的面白さはさすがに「インセプション」にはかなわない。

 とはいえ、この映画はとても興味深く面白いものだったし、なんといってもタンディ・ニュートンかっこいい! 思わず目が覚めたわ。彼女のガンアクションが最高。そして最後の切なさが胸に迫る。もう一度見てみたいと思わせる作品だった。(レンタルBlu-ray

2021
REMINISCENCE
アメリカ  Color  116分
監督:リサ・ジョイ
製作:リサ・ジョイほか
脚本:リサ・ジョイ
撮影:ポール・キャメロン
音楽:ラミン・ジャヴァディ
出演:ヒュー・ジャックマンレベッカ・ファーガソンタンディ・ニュートンクリフ・カーティス

グリード ファストファッション帝国の真実

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 タイトルが「グリード」ですよ! つまり、「強欲」。これって七つの大罪の一つのはず。そんなタイトルを背負わされたヒーローは誰かと言うと、イギリスのアパレル界の成功者、リチャード・マクリディ卿。この映画は実在のモデルがいて、そのモデルをこれでもかとばかりにあざ笑い貶めるので、なんで名誉棄損で訴えられていないのかが不思議なぐらいだ。イギリス人ならば、この映画が誰をモデルにしているのかは言を俟たないところなんだろう(アルカディアグループ会長のフィリップ・グリーンだそうな)。

 彼が若いころから貪欲で、大阪人もびっくりの値切り倒し人間であったことが描かれる冒頭、演出はなかなかスピーディでよろしい。しかしいくら値切るのがうまいからといって、アジアの最低賃金労働者をこきつかおうと発想するところがたまらなくいやらしい。あ、それは日本のユニクロも同じですね、ユニクロを着ているみなさん反省しましょう。

 とにかく安い賃金で労働者を使い倒せる場所を探してどこまでも。それで儲けた金について税金はびた1ポンドも払いたくない。資本家というのはこういう人を言うのだな、なるほど。潔いほどグリードなのでもう感動するしかない。監督はマイケル・ウィンターボトムだから、この手の人物にはもちろん大いなる皮肉と鉄槌をくだそうという魂胆ありありで、それでこの映画もとても面白くて笑うしかない。こんなに社会派映画なのに! 賃金差別やグローバリゼーションを告発しているのに! でもコメディなんです。

 最後までコメディであることに感動するしかない。だって、主人公リチャード・マクリディ卿は自身の60歳記念誕生日会を盛大に祝おうとあれこれと手を尽くしているというのに結局は……。

 主役を演じたスティーブ・クーガンってわたしはけっこう好きな役者で、こういう嫌味な親父役も実にうまく演じていて感動した。しかしこういう人物に「卿」の称号を与えてしまうイギリスってどうよ。

 映画ではこの大富豪であるリチャード・マクリディ卿の伝記を書こうとしている作家の視点が多く用いられているが、彼とても自分の被伝者の実像に迫ることはなかなか厳しい。結局のところこの経営者の強欲と気の強さは最後の最後まで保たれている。そこがあっぱれ。

 アジアの最低賃金労働者の搾取の上に成り立つ安い服を着ている我が身を恥じないのか? と問われると、思わず口をつぐんでしまいそうになるのが恥ずかしい。ひきつり笑いを繰り返した挙句の本作の結末にはただひたすら、「自責の念を感じよ、笑っている汝も罪びとなり」とウィンターボトム監督に説教されているような気になる。(レンタルDVD)

2019
GREED
イギリス  Color  104分
監督:マイケル・ウィンターボトム
製作:ダミアン・ジョーンズ、メリッサ・パーメンター
脚本:マイケル・ウィンターボトム
撮影:ジャイルズ・ナットジェンズ
出演:スティーヴ・クーガン、デヴィッド・ミッチェル、エイサ・バターフィールドソフィー・クックソンシャーリー・ヘンダーソンアイラ・フィッシャー