吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

脱走

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 脱北もの。最後まで手に汗握るアクション映画なのだが、なぜか実際の上映時間よりも長く感じてしまった。それは、脱北を計画する若き兵士の絶望とスリルにわたしの忍耐力が及ばないからだろう。早く楽にしてやってほしい、早く結末をつけてやってほしい、と思い始めるからだ。つらすぎる、これはつらすぎる。脱北の脱走がこれほどまでにつらいのに、それでもなぜ南へ行きたいのだ? 南に行ったからと言って幸せになれるとは限らない。お腹いっぱい食べられるとも限らない。韓国だって過酷な競争社会だ。

 主人公ギュナムは国境の警備に就く兵士。もうすぐ10年の勤めを終えて除隊されるのだが、彼はその除隊の前に南へ逃走することを目論んでいる。おそらく何か月もかけて綿密に練り準備行動したであろう脱走計画を実行する日は近い。普通に考えたら、毎晩夜中に宿舎を抜け出したりしたら絶対に誰かにばれるはずなんだが。案の定、若い兵士に見つかってしまう。そして、その若い兵士は自分も一緒に連れて逃げてくれと懇願する。しかし、見張りに見つかって二人とも逮捕されてしまうのだった……。

 ここからが、ギュナムの苦難の道が始まる。いや、たぶんここまでも十分つらかったのだろう。父が死に母が死に、彼は天涯孤独となった身。もはや北の国に未練はないし、腹を空かせる毎日にも十分耐えた。脱走がばれて拷問されている彼の元に保衛部少佐リ・ヒョンサンがやってくる。まだ若いヒョンサンは実はギュナムの幼馴染であった。2人も脱走兵を出したとあっては自分の身が危ないヒョンサンは、ギュナムを脱走を阻止した英雄に祭り上げることにする。果たしてギュナムの脱走は完遂できるのだろうか。

 という、スリル溢れる脱走劇。次から次へとギュナムの前には危機が訪れ、そのたびに機転を利かせて逃げおおせるギュナムだが、最後の最後になっていよいよ絶望的な状況へと追い込まれていく。 

 ひたすら広野を走るギュナムを見ているうちに、わたしはポーランド映画「エッセンシャル・キリング」を思い出した。生き延びるためだけに走り続けるそのひたむきさは、エッセンシャル essenntial な欲望だけが人を生きさせるのだと訴えかけてくるようだ。

 なぜ南へ行きたいのか? 最後の方で彼は言う。「南では失敗できる。ここでは失敗は許されない」と。なるほど、失敗できる自由というのがどれほどありがたいのか、わたしたちは普段気づいていない。最後の最後まで気を抜けないアクション映画であるが、北の国をあのように悪しざまに描くことの是非を韓国映画界の人たちはどのように考えているのだろう。「愛の不時着」のような、北の人々へのリスペクトはこの映画からは感じられない。(レンタルDVD)

2024
ESCAPE
韓国  Color  94分
監督:イ・ジョンピル
脚本:クォン・ソンフィ、キム・ウグン
撮影:キム・ソンアン
音楽:タル・パラン
出演:イ・ジェフン、ク・ギョファン、ホン・サビン、ソン・ガン

#真相をお話しします

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 アイドル映画かと高を括って見ていると意外と面白い。かといって期待して観るとたぶん期待外れ。という微妙なレベルの作品。わたし自身は最後まで興味深く観た。

 ネット世界のフェイク情報やらやらせやらプライバシー暴露やら、高みの見物の匿名ユーザー批判やら、社会批判に満ちた題材である。ただまあ、あまりにも血みどろ場面が多いので辟易してしまう。

 主人公は、かつて子ども時代の自分たちの離島生活をネット配信されていた若者たち。自分たちの日常生活がネット公開されていて、そのファンが100万人単位で存在していたが、ある日突然閉鎖された。その理由はなんなのか、誰も知らなかった。遂に明かされる、かつての人気チャンネル閉鎖の真相!

 似たようなテイストの話としては「トゥルーマン・ショー」が思い出される。生活すべてがフェイクだった、という驚くべきドラマだった。あの当時としては実に斬新で社会派SFとして耳目を集めたものだ。そして今回のこのドラマも似たような設定になっている。何よりも、匿名で好き放題言い放っている視聴者自身のモラルが問われる、という社会派エンタメ作。

 非常に挑戦的であり面白い題材だが、話を面白くするために事件を起こしすぎだし、ネットユーザーの個人情報がそんなに簡単に入手できたりするものなのか、真面目に考えたらおかしなことばかりではある。

 こういう題材は返す刀で製作者自身も切られる覚悟が要る。(Amazonプライムビデオ)

2025
日本  Color  117分
監督:豊島圭介
企画プロデュース:平野隆
原作:結城真一郎
脚本:杉原憲明
音楽:江崎文武
出演:大森元貴、菊池風磨、中条あやみ、岡山天音、福本莉子、伊藤英明

 

ディア・ファミリー

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 実話なので、結末を変えるわけにはいかない。幼い娘の心臓病を治したい一心で、父親の町工場経営者が心臓カテーテルを製造するまでの物語。結局娘の病気を治すまでには間に合わなかったのだが、彼のおかげで日本の心臓病患者が救われている。

 娘可愛さの一心ですべてを投げうって始めた製品開発への執念には恐れ入る。医療には全くの素人なのに、絶対に治してやる!と娘に約束した以上、絶対は絶対なのだ。だからパパは頑張る! 当初は人工心臓を作る予定だったが、断念。ここでもう娘の寿命は尽きかけていた。しかし諦めずに、次は日本人の体形にあった心臓カテーテルの開発にとりかかる。

 諦めないというのは実に大事なことだ。同時に、資金を引っ張るだけの交渉力も必要。典型的なド根性家族愛物語なのだが、わたしは素直に感動した。金の為とか栄誉の為とかではなく、娘のためという一途な思いに胸打たれる。まあ、うまくいったから結果オーライなんだけど、ほんとは工場をつぶして従業員を路頭に迷わせる可能性も高かったわけで。みんなよく頑張りました!(レンタルBlu-ray)

2024
日本  Color  117分
監督:月川翔
製作:市川南、井原多美
原作:清武英利
脚本:林民夫
撮影:山田康介
音楽:兼松衆
出演:大泉洋、菅野美穂、福本莉子、新井美羽、川栄李奈、満島真之介、戸田菜穂、有村架純、松村北斗、光石研

陪審員2番

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 劇場未公開。

 最近のイーストウッド作品はどれもいまいちでさすがに巨匠ももう力がないのかと思っていたが、その中ではこの作品は突出して面白かった。本作もまた「十二人の怒れる男」と同じテイスト。こういう室内劇は永遠に作られ続けるのだろう。主な舞台が室内とはいえ、事件の再現場面などは映画らしさを見せてくれる。

 犯人は誰か? 裁判で明らかになる真実と事実とは同じではない。そして、正義を全うするには相当な覚悟が必要という、「あなたならどうする」とギリギリと観客が問い詰められているような緊張感ある物語だ。

 ストーリーの概要を示せば、巻頭で主人公が「交通事故」(?)を起こしたかもしれないという場面が提示される。車を降りて周りを見ても何も見つからなかったので、彼は何事もなかったと思い込んで帰宅する。しかしその後、その「交通事故」は別の男が犯人とされる殺人事件として裁かれることとなり、なんという偶然だろうか、主人公が陪審員の一人となって裁くこととなった。審理が進むにつれて彼は「自分こそが真犯人ではないか」という疑いを持つようになる。彼の恐怖と葛藤は想像するだに恐ろしい。

 究極の選択を迫られるような状況に陥ったとき、ひとは何を大切に思い、どの道を行くのだろう? 倫理的判断を迫られる時、あなたなら(わたしなら)どうするだろう?

 本作が真犯人を追う謎解きの物語ではなく、倫理を問う物語であるからこそ、観客は第三者でいられない居心地の悪さを感じる。いっぽうで実はこの物語にはさらにどんでん返しの裏があるかも、と思わせる余白の部分も残されている。さて真実はどこに? (レンタルDVD)

2024
JUROR #2
アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
製作:クリント・イーストウッドほか
製作総指揮:デヴィッド・M・バーンスタインほか
脚本:ジョナサン・エイブラムズ
撮影:イヴ・ベランジェ
音楽:マーク・マンシーナ
出演:ニコラス・ホルト、トニ・コレット、J・K・シモンズ、キーファー・サザーランド、フランチェスカ・イーストウッド

ナイアド  その決意は海を越える

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キューバからフロリダまで、160キロを泳ぎきった60歳代の女性、ダイアナ・ナイアドの実話。この手の素材はドキュメンタリー向けと思うが、あえてドラマにしたのだろう。だから、非常に地味で、このテーマに関心あるか主演のアネット・ベニング目当て以外の人は見ないだろう。

 ナイアドは元々水泳選手であり、かつてキューバからアメリカまでの完泳を目指して断念したという過去を持つ。六十歳を超えてからこの超長距離水泳に再び挑んだ。1回目失敗、2回目失敗、3回目失敗、と続くと、映画を見ている観客(私)は「いったいいつになったら成功するのか?!」とウンザリしてしまう。もちろん彼女は諦めない。彼女のコーチであり親友であるボニー・ストールも諦めない。

 そしてとうとう5回目、2013年に彼女は180キロを泳ぎ切った。時にナイアドは64歳になっていた。毎回、クラゲと鮫に悩まされつつの挑戦だった。その過程のすさまじさと鮫よけの技術的な工夫も見ものである。5回目の挑戦で53時間を泳ぎ切ったわけだが、想像を絶するような出来事だ。何が楽しいのか、わたしには理解できない……。

 本作はアネット・ベニングの熱演がすべて。演技とはいえよくぞ泳いだものだと感動する。本作でアネットはアカデミー賞にノミネートされた。コーチ役のジョディ・フォスターももちろん素晴らしい演技を見せている。この二人のおば(あ)さんたちの熱演が胸を打つが、観ているだけでもしんどくなる映画であった。

  映画を見終わってから彼女のことをネットで調べてみたところ、様々な疑義が呈されていることがわかった。映画は実際の彼女のプロジェクトをかなり簡素化して描いていることも知った。実際には彼女に随伴したスタッフは40人以上いるらしい。出典は↓

映画『ナイアド』の舞台裏:観る前に知っておきたいトリビア 何が本当で何が間違い?マラソンスイミングの真髄とは – World Open Water Swimming Association

 しかし映画では40人がわずか数人になっているというのだが、これは映画的にはしょうがない改変である。2時間ほどの映画に40人以上もスタッフを登場させたら誰が誰だがわからなくなる。事実をそのまま描くのがよい作品というわけではなかろう。

 ま、ほかにもいろいろ不正疑惑とかあるらしいが、そんなことはわたしにとってはどうでもいい。とにかく53時間も泳ぎ続けたということ自体が驚くべきことであり、いったいいつ眠ったんですかと聞きたくなる。一睡もしていないという話だが、ほんまかいなと驚くしかない。伊達や酔狂は本人にしかわからないことなのだ。この手の偉業を描く映画は登山家のそれしかり、スイマーもしかり、ただただ感嘆して畏敬の念をわたしは抱いてしまう。しかしその熱量を社会変革に向けたら世の中もっと変わるのにと思わずにはいられない。(Netflix)

2023
NYAD
アメリカ  Color  120分
監督:エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ、ジミー・チン
製作:アンドリュー・ラザー、テディ・シュウォーツマン
製作総指揮:ビル・ジョンソンほか
原作:ダイアナ・ナイアド
脚本:ジュリア・コックス
撮影:クラウディオ・ミランダ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:アネット・ベニング、ジョディ・フォスター、リス・エヴァンス

 

87分の1の人生

劇場未公開作。

 モーガン・フリーマンがいい役を演じて、それだけで魅せることができる。なにしろ声がいい。声だけで彼だとわかる。原題は「善人」だから、ドラマの内容は推して知るべし。邦題の「87分の1」は、主人公モーガン・フリーマンが趣味とする鉄道模型の縮尺が原寸の87分の1モデルということに由来する。

 交通事故で娘夫婦を喪った老人と、その事故の加害者である若い女性(フローレンス・ピュー)との葛藤と赦しの物語。悲劇が一人の身にいくつも襲い掛かる。そしてアルコールに依存し、または薬に依存するようになる。そんな地獄から人はどのように抜け出し、解放されるのだろう? しみじみと善い映画。善人でいるのはつらいのだよ。 (Amazonプライムビデオ)

2023
A GOOD PERSON
アメリカ / カナダ  Color  128分
監督:ザック・ブラフ
製作:ザック・ブラフほか
脚本:ザック・ブラフ
撮影:マウロ・フィオーレ
音楽:ブライス・デスナー
出演:フローレンス・ピュー
モリー・シャノン
チナザ・ウチェ
セレスト・オコナー
モーガン・フリーマン

 

パディントン 消えた黄金郷の秘密

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 いまどきこんなおおらかな熊ちゃんの映画に現実味を感じなくなっているのが怖い。なんでイギリスでは熊が可愛くて人間のアイドルになるんだろう。不思議に思っていたのだが、どうやらイギリスには熊が居ないらしい。11世紀に絶滅したとある(GoogleAI情報)。やっぱりそうなのか、だからあんなに可愛い熊さん物語が生まれるのだ。そういえば熊のプーさんもイギリスの児童文学である。こんな牧歌的な熊物語はとてもじゃないが今の日本では生まれそうもない。

 して、今回のパディントンはシリーズ第3作。今度の舞台はペルーである。パディントンの育ての親である熊のルーシーおばさんに会いにブラウン一家全員と一緒に旅に出て、大冒険に巻き込まれる、というお話。

 なんで大冒険になったかというと、それは行方不明になったルーシーおばさんを探す旅が宝探しの旅となったから。南米ペルーといえば、エル・ドラドではないか。今でもやっぱり黄金郷なのだろうか。で、アマゾン奥地に黄金郷を探しに船旅に出るっていうパターンは既視感がめっちゃあるんですけど、船長がおちゃらけなアントニオ・バンデラスっていうのが良い。

 パディントンの物語にはいつも多文化共生思想が横たわっていて、それが今回も底流している。そして、家族愛。黄金よりも家族が大事、それこそこの映画の言いたいことでした。ブラウン一家の子どもたちもすっかり大きくなったので、シリーズはこれで終わりかな? 実に楽しい映画なので、家族そろって配信で見るのがお薦め。 (Amazonプライムビデオ)

2024
PADDINGTON IN PERU
イギリス / フランス / 日本 / アメリカ  Color  107分
監督:ドゥーガル・ウィルソン
製作:ロージー・アリソン
脚本:マーク・バートン、ジョン・フォスター、ジェームズ・ラモント
撮影:エリック・A・ウィルソン
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:ヒュー・ボネヴィル、エミリー・モーティマー、ジュリー・ウォルターズ、ジム・ブロードベント、オリヴィア・コールマン、アントニオ・バンデラス
声の出演:ベン・ウィショー、イメルダ・スタウントン