吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

 子どもの頃に大好きだった「若草物語」。わたしはもちろん自分自身を次女・ジョーに重ねて読んでいた。男勝りで活発で気の短いジョー、文才があって男に頼りたくないと思っている彼女がわたしの目指すべき憧れの存在に思えたものだ。

 だから、50年ぶりに本作に出会ったとき、懐かしいような、新たな物語が紡がれているような感動を味わえた。若草物語の主人公たちが登場する本作は原作を大胆に組み替えて、「現在」の時制をニューヨークに出てきたジョーの1886年に設定している。出版社に持ち込んだ原稿が評価されたのかされないのか微妙な感じ。編集者は言う、「女主人公が結婚しない物語は売れない」と。だからジョーはしぶしぶ自分をモデルとする主人公を結婚させることになるのだ。しかしそれは結末の話であって、物語はまず7年前に飛ぶ。

 ここから、わたしたちがよく知っている「若草物語」を基本的になぞっていくのだが、映画では縦横に時間軸が操作される。うっかりしていると、今が「現在」なのか「7年前」なのかわからなくなる。これはもう、原作を読んでいるかどうかで勝負は決まりだね。原作ファンにだけ送る映画といってもいいのではないか。だからこそ、この映画の物語が「若草物語」なのか、ジョーの物語なのか判然としなくなり、「現実」と「映画内物語」が混然一体となっていく。その演出が実に見事だ。

 そしておなじみの4姉妹、しっかり者で結婚願望の強いメグ、自立心旺盛なジョー、病弱で心優しいベス、お茶目でわがままで可愛いエイミー、この4人の仲のよさと喧嘩っ早さを笑って見ていることになる。なんとまあ、かしましい娘たちよ!

 それなりの長さがあるはずの作品なのにまったく退屈することがなく、非常にテンポのいい演出と、アメリカの大地と邸宅、四人姉妹のささやかな、しかし堅実な生活ぶり、パリでの瀟洒な部屋と調度品といった美術や撮影にも陶然とする。

 マーチ家の四人姉妹は「金がない」とか「隣の金持ちがうらやましい」といったセリフを吐くが、どこが?というぐらいに立派な家に住んでいるのだから、21世紀の日本の都会に住んでいるウサギ小屋の住民からは十分贅沢な生活ぶりに見える。それぐらいアメリカ白人の家庭はもともと裕福だったのだろう。南北戦争のせいで没落して生活が苦しくなったということだろうが、それはあくまでも「裕福だった以前と比べて苦しい」というだけのこと。

 この時代のアメリカ白人の中流階級の習慣もよくわかってとても興味深い。姉妹の父は従軍牧師として出征しているのだが、無事に帰還できるかどうかが彼女たちの一番の気がかりだ。そういった歴史的な事情がいろいろと呑み込めてとても楽しめる映画である。

 ラストシーンのジョーの一言には思わずうなってしまった。そうだよ、著作権って大事だからね。ここに女の経済的自立への知恵の泉が湧いていることをグレタ・ガーウィグ監督は見抜いている。(レンタルBlu-ray) 

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2019
LITTLE WOMEN
アメリカ Color 135分
監督:グレタ・ガーウィグ
製作:エイミー・パスカルほか
原作:ルイーザ・メイ・オルコット
脚本:グレタ・ガーウィグ
撮影:ヨリック・ル・ソー
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:シアーシャ・ローナンエマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーンティモシー・シャラメメリル・ストリープルイ・ガレルクリス・クーパー