吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

男と女 人生最良の日々

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 50年の時を超える続編! なんというおしゃれな映画だろう。なんという心を揺さぶる物語だろう。愛し合った記憶、二度と戻らない時間、もはや死以外に未来はない二人に再び愛の灯を微かに、しかし間違いなくともしていくその邂逅はなんという幸福感に満ちているのだろう。

 生涯愛し続けた人が目の前にいるのに、もはやそのことにも気づかないジャン=ルイ。アンヌはそんな彼をやさしく見つめる。「これほど愛されていたなんて」と感動にひたる彼女の幸せそうな笑顔。

 どれほどアンヌを愛していたか、滔々と語るジャン=ルイの記憶は斑に空隙を作り、あるときは鮮明にその物語が浮かび上がるが、またある時は遠い空に薄く流れる雲のようでもある。目の前にいるその美しい老女がアンヌだと知っているようでもあり、そしてまた誰だかわからなくなる。そんなふうにして、いずれは本当に何もかも分からなくなっていくのだろう。

 人生の最後を海辺の施設で車椅子に乗って過ごすジャン=ルイは、その海辺がかつて二人の愛を確かめたその海であることがわかっているのだろうか。浜辺で互いの子どもたちと一緒にじゃれ合う、50年前の思い出がジャン=ルイの現在の姿にかぶさる。アンンヌのあまりにも美しいその顔がアップになり、若々しく爽やかなジャン=ルイの笑顔が現在の死を間近にした老人の生気のない顔とまじりあう。

 ここでは時間の隔たりが一瞬にして意味を失い、過去は現在に、現在は過去と一体となって、もはや未来も過去の中にあることを示す。

 この映画に出会えたことを天に感謝したい。よくぞスタッフもキャストもここまで長生きしてくれていたものだ。そして、この映画に流れるなんともいえないユーモアが素晴らしい。モニカ・ベルッチが登場したときには思わず笑ってしまったが、彼女が自身のヒット曲を口ずさむシーンの茶目っ気は、日本人にはわかりにくい。ヨーロッパの観客ならこの場面を面白がることができるのに。わたしは息子Y太郎に指摘されてわかったが、「こういう点がヨーロッパ映画の楽しみ方として日本の観客は損している」とな。最後のパリ市内の疾走シーンもクロード・ルルーシュの別の短編から転用したもので、これは実際に時速200キロ近い速度で走って信号無視を繰り返したものとして話題になった作品だという。しかも現在ではYoutubeで見られて、短編ながらおおっと思わせる結末がついている。ルルーシュの自己作品への愛情と執着がこういう短編を挟むところにも見て取れる。人生の最後に過去のきらめきをすべて盛り込んでいるところに、この作品内部の物語構造と同時にこれを製作したスタッフたちのメイキング構造の面白さがうかがえる。 

 映像、音楽、役者たち、そして物語そのもの、すべてが言葉を失うほど美しい奇跡の映画。息子の解説のおかげで個人的にはいっそうお得感がついた作品だった。(レンタルDVD)

2019
LES PLUS BELLES ANNÉES D'UNE VIE
フランス Color 90分
監督:クロード・ルルーシュ
製作:サミュエル・ハディダ
ヴィクター・ハディダ
クロード・ルルーシュ
脚本:クロード・ルルーシュヴァレリー・ペラン
撮影:ロベール・アラズラキ
音楽:フランシス・レイ、カロジェロ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャンモニカ・ベルッチマリアンヌ・ドニクール、スアド・アミドゥ、アントワーヌ・シレ