異色のゾンビもの。
どういう経過か知らないが、世の中にゾンビ病が蔓延して8年後という設定になっている。もはや世界中に生き乗った人々はわずかにNYに居るのみ。ていう設定からしてもう全然意味不明なんですけど。なんでガソリンあるんですか。なんで電気が通じているんですか。なんで自動車が運転できるんですか(キーはどうしたの)。とか、いろいろありえない設定だらけなのだが、そんなことは気にせずグイグイと前に進みましょう。
それから、ゾンビにも2種類あって、いちおう人間の姿を残しているゾンビと、完全に人間であることをやめた骸骨とがいる。で、ガイコツたちが勿論狂暴であり、どうしようもなく論理とか話し合いが通じない相手だ。人間と似た姿を残しているゾンビの青年であるRは、ある日、食糧収集のための人間狩りの途中で、ジュリーという名の娘に一目ぼれしてしまう。しかし、彼は自分がかつて人間だった時の名前が「R」で始まる綴りであるということしか覚えていないようなゾンビであり、ろくに言葉も話せない。なのに、ジュリーを助けようと躍起になる。しかし、実はRは空腹を満たすためにジュリーの恋人を食ってしまったのだった。人間の脳を食うとその記憶を体感できるゾンビとして、Rはジュリーの恋人の記憶を所有してしまう。。。
という、妙な設定から始まって、人間のジュリーをなんとかしてゾンビたちからかくまおうとするRの孤軍奮闘が描かれ、さらにはゾンビRが徐々に変化していく様子に驚かされるという話。
これは異文化理解のメタファとしてとらえることができる物語であるが、変化するのが人間のほうではなくゾンビの方だというのがインチキくさい。ゾンビが徐々に人間らしくなっていく、ということなのだ。だから異種であるゾンビと人間とが交流可能になっていくという設定なのだが、大いに疑問が残る。結局のところ、人は自己変革を遂げることなく、一方的にゾンビに人間化を強要する話ではないのか? 異文化理解というよりも融和を促す話である。生き残った人間たちが高い壁を築いて自分たちの居住区を守っている様子は「アメリカ、ファースト」と叫んでメキシコ国境に壁を設置したトランプ大統領を想起させる。
ゾンビたちがどんどん人間に戻っていくラストシーンで、「人間に戻れてよかったね」というハッピーエンドになるのだが、自分の恋人を食ってしまったゾンビを愛することができるのか? そんなええかげんなものなのか、人間の心理は。納得できない。
とはいえ、ここには異文化コミュニケーションのあり方など、いくつも示唆に富んだ点があって、映画を見終わった後にいろいろ語り合いことがある含蓄多い作品である。もちろん全体としてコメディなんだけどね……。(レンタルDVD)
2013
WARM BODIES
アメリカ Color 98分
監督:ジョナサン・レヴィン
製作:ブルーナ・パパンドレアほか
原作:アイザック・マリオン 『ウォーム・ボディーズ ゾンビRの物語』(小学館刊)
脚本:ジョナサン・レヴィン
撮影:ハビエル・アギーレサロベ
音楽:マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース
出演:ニコラス・ホルト、テリーサ・パーマー、ロブ・コードリー、デイヴ・フランコ、ジョン・マルコヴィッチ