吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

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 タイトルの意味はアメリカ先住民たちが「花殺し月」と呼ぶ、五月の満月の夜祭りに由来するらしい。オクラホマ州居留地に追いやられた”インディアン”のオセージ族は、その祭りの最中に地中から噴き出た石油のおかげで大金持ちになる。やがて彼らの町は豊かになり、白人が大挙してやってきてはインディアンの娘と結婚したがった。時代は第1次世界大戦後、地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイルを頼ってやってきた若者、アーネスト・バークハートはヘイルに唆されるままにオセージ族のモリーと結婚する。モリーとの幸せな生活の裏で、着々と彼女の親族にヘイルの魔手が伸びていた。オセージ地区では何十人もの不審死が続き、殺人、自殺、事故が絶えない。やがてワシントンから、FBIの捜査官がやってきて事態は急転する。

 これは恐るべき大量殺戮の記録である。実話だというから驚くほかない。ほとんど仁義なき戦いのようなテイストで、次々と「インディアン」やその関係者が殺されていく。よくぞこれだけ殺しておいてばれないものだと呆れかえる。それほどにも先住民の存在は無視され、捜査を訴える声に誰も耳を傾けなかったのだろう。しかしようやくアーネストの妻モリーが病を押して大統領に事件の真相究明を直訴することにより、創設されたばかりのFBI捜査官が派遣される。

 スコセッシはこの時代の歴史的背景を実に巧みに描く。大戦後であることは、復員してきたアーネストの言動ですぐわかるし、彼が「流行り風邪がひどくて」と一言いうセリフでわたしたちにはそれがスペイン風邪であることがわかる。ほかにも、KKKのデモンストレーションや、モータリゼーションの時代を象徴する車列の数々や、黒人虐殺事件のニュース映像など、さりげなく挿入される「時代性」が観客の興味をそそる。

 アーネストを演じたディカプリオのクズ男ぶりも実に情けなく、またロバート・デ・ニーロの残虐ぶりは「アンタッチャブル」(ブライアン・デ・パルマ監督、1987年)のカポネを彷彿とさせる。モリーを演じた先住民俳優のリリー・グラッドストーンが美しくも静かな凄みを見せて好演。糖尿病(と毒)で徐々に弱っていくモリーの葛藤や恐怖を全身で演じた。モリーがいったい何を考えているのかよくわからない女性として描かれているところも興味深い。結局”インディアン”は白人にとって理解を超える存在なのではないか。

 金がすべてを奪う。金が人の命を奪い、親戚同士を殺し合わせる。財産を狙う有象無象がオセージたちの周辺に群がり、腐臭を放つ。インディアンは白人の食生活を真似して糖尿病に罹り、アルコール依存症になっていく。白人がもたらしたものは先住民にとって災厄でしかないのだろう。

 ところで、映画の中でワシントンからの捜査官を誰がよこしたのか、という質問に「J・エドガー・フーバーだ」と答えるセリフがある。これはディカプリオがタイトルロールを演じた「J・エドガー」へのオマージュか。(Apple TV+)

2023
KILLERS OF THE FLOWER MOON
アメリカ  Color  206分
監督:マーティン・スコセッシ
製作:ダン・フリードキンほか
原作:デイヴィッド・グラン 『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』(早川書房刊)
脚本:エリック・ロスマーティン・スコセッシ
撮影:ロドリゴ・プリエト
音楽:ロビー・ロバートソン
出演:レオナルド・ディカプリオロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーンジェシー・プレモンス、タントゥー・カーディナル、カーラ・ジェイド・マイヤーズ、ブレンダン・フレイザー