吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ハウス・オブ・グッチ

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 1921年に創業されたイタリアのグッチが世界のブランドとしてその名を馳せた時期に、同族経営の内紛から崩壊していくその過程を描いた作品。主人公は1970年代後半にグッチ家の御曹司と結婚したパトリツィア。上昇志向でギラギラした下品な女をレディ・ガガが最高の演技で見せてくれる。財産とグッチの名前を目当てに御曹司に言い寄る魅力的な女、パトリツィア。言い寄られた御曹司の世間知らずさにもうんざりするが、この御曹司がいかにもそれらしい人の良さを見せているのも不気味だ。

 目論見通り結婚にたどり着いたパトリツィアは夫のマウリツィオをそそのかして、一族の株を買い占めようとする。さして経営の手腕のないマウリツィオは叔父や従兄弟をハメて経営権を独占することに成功する。しかしそこに至るまでには脱税の告発合戦ががあり、著作権の取り合いがあり、骨肉の争いが繰り広げられる。

 そんな争いや、偽グッチの横行やら、いろいろなことが1980年代に起きたことを思い起こさせてくれるのは、バックに流れる当時の流行曲。実に懐かしい。

 パトリツィアの悪女ぶりが思う存分描かれていて、レディ・ガガがエキセントリックに演じている。グッチ一家の憎悪や嫉妬がこれでもかとばかりにわかりやすく描かれ、夫を思うままにあやつろうとするパトリツィアに嫌気がさすマウリツィオの心理も実にわかりやすく、すべてがわかりやすく下品で金と欲にまみれた連中ばかりで、才能もなにのに勘違いしている滑稽な三代目とか、嫌な人間ばかりだ。唯一上品で文化資本にあふれた人間としてマウリツィオの父(ジェレミー・アイアンズ、役柄ぴったり)が描かれていたが、重要な役割を演じることなく死んでしまうし。

 見終わってからリドリー・スコット監督作であることに気づいた。そうか、リドリー・スコットがこういうジャンルに興味を持った理由はなんだろう。資本主義批判のつもりか? ブランド信仰の「記号」批判? リドリー・スコットらしさが感じられない映画だったが、それなりに興味深く面白かった。(レンタルDVD)

2021
HOUSE OF GUCCI
アメリカ  Color  159分
監督:リドリー・スコット
製作:リドリー・スコットほか
原作:サラ・ゲイ・フォーデン
脚本:ベッキー・ジョンストン、ロベルト・ベンティヴェーニャ
撮影:ダリウス・ウォルスキー
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演:レディー・ガガアダム・ドライヴァーアル・パチーノジャレッド・レトージェレミー・アイアンズ、ジャック・ヒューストン