吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ザ・メニュー

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 世界一予約がとれないレストランといえばエル・ブリ。このレストランとシェフを取材したドキュメンタリー映画エル・ブリの秘密」(2011年)を長男Y太郎(当時20歳の学生)と一緒に見たことを思い出す。そのエル・ブリも今は閉店している。

 今回の主人公・超有名シェフ、スローヴィク(レイフ・ファインズ、怖さにびびる、上手いわ)とその店はこのエル・ブリのフェラン・アドリアなど、世界的に著名なシェフとその店を参照して造形されている。スローヴィクの店は無人島に建てられており、舟で行き来するしか陸地との通路はない。そのプロダクションデザインが洗練されており、超高級レストランのイメージにぴったりだ。

 そして供される、手の込み過ぎた料理の数々。シェフがいちいち偉そうに客に料理の説明と指示を出す。厨房ではシェフの号令の下、軍隊のような規律で以て一糸乱れず料理人たちが動く。その様子が不穏、かつ怜悧な緊張感が漲っている。前菜、アミューズ、魚介、と続く料理はこれまで見たこともないような盛り付けとアイデアに満ちている。今夜の客は選び抜かれた5組11人の美食家たち。しかしその中に一人だけ、予定外の人物がいた。それがヒロインのマーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ、最近いろんな映画でよく見かける個性的美女)だ。彼女がこの「事件」の鍵を握ることになるとはこの時はまだ誰も予想していない……。

 スローヴィクが提供する恐るべきディナーが徐々に常軌を逸するようになり、美食家たちはやがて彼の精神的支配下におかれるようになる。逃げようにもここは離島。狂気の夜は更けていく。。。。これはいったい何の罠なのか罰なのか。

 実に恐ろしい映画である。しかもスローヴィクが何のためにそこまでやるのか不明。彼が手をパンッ!と打つたびに画面に緊張が走り、観客もびっくりしてしまう。この演出がたまりません。物語はリアリティよりも映画的な過剰さを追求しているため、そういう話についていけない人には面白くないかもしれない。なんでそこまでやりますか、という理由もいちおう説明されているけれど、その説明に説得力があるのかどうかはどうでもいい。

 要は資本主義批判というか社会批判のつもりであることは理解できるが、その切れ味があるかどうかは観た人の舌に任されていると言っていいだろう。狂ったシェフから逃れる手立てはあるのか? ただ一人、彼の前に拝跪しなかった我らがヒロインの知恵と勇気と反骨精神に拍手! アジア系ホール係の不気味さも卓抜!

 見終わったら絶対にハンバーガーが食べたくなります。

2022
THE MENU
アメリカ  Color  107分
監督:マーク・マイロッド
製作:アダム・マッケイほか
脚本:セス・リース、ウィル・トレイシー
撮影:ピーター・デミング
音楽:コリン・ステットソン
出演:レイフ・ファインズ、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコラス・ホルト、ホン・チャウ、ジョン・レグイザモ