吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

クレッシェンド 音楽の架け橋

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 パレスチナイスラエルから選抜された若者たちから成るオーケストラが共に音楽を編み上げていく過程を描いた感動作。と言いたいところだが、実際にはかなりつらい物語であった。これは実在のオーケストラをモデルにしていて、世界的指揮者が登場する、その彼は映画ではドイツ人ということになっているが、実際にはダニエル・バレンボイムなのだ。バレンボイムといえばユダヤ人指揮者であり、ジャクリーヌ・デュプレの夫でもあった人物だ(ああ、可哀そうなジャクリーヌ!)。彼はユダヤ人であるがイスラエル政府を批判していることで知られている。そして、1999年には友人であるエドワード・サイードと共にウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団の創設に加わった。本作はその事実に基づいて作られている。

 パレスチナイスラエルからオーディションを通った若者たちが集められるのだが、彼らはなかなか打ち解けられない。まあ、当たり前といえば当たり前。そこで、ドイツで合宿を実施することになり、指揮者が厳しい指導を行う。このあたりの描写がじっくり描かれていて興味深かった。ヨーロッパの人々は英語でみんな話が通じるのだなあととても羨ましい思いがする。これ、日本でなら無理だろう。

 実在のオケをモデルにしたとはいえ、指揮者の立場などはかなり創作されている。また、結末も事実とは異なっているようだ。そんなに簡単に対立の壁は打ち壊せないのだ。理想は理想であって、現実は厳しい。そのことを深く胸に刻み付けることになる物語は、後に尾を引く感動がしみじみとほろ苦く残る。(レンタルDVD)

2019
CRESCENDO
ドイツ  Color  112分
監督:ドロール・ザハヴィ
製作:アリス・ブラウナー
原案:アルト・ベルント、アリス・ブラウナー
脚本:ヨハネス・ロッター、ドロール・ザハヴィ
撮影:ゲーロ・シュテフェン
音楽:マーティン・シュトック
出演:ペーター・ジモニシェック、ビビアナ・ベグロー、ダニエル・ドンスコイ、サブリナ・アマリ、メディ・メスカル