吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ハリエット

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 女ダイハードみたいな話なのには驚いた。「自由か、死か!」と叫ぶハリエット、かっこよすぎるやんか。

 ハリエットのことをわたしは何も知らなかった。このたび、黒人女性として初めてのドル札の顔になるという。女性としても黒人としても初というので、これはすごいことなのでは。

 映画はハリエットが新婚の夫を置いて売り飛ばされそうになるというところから始まる。奴隷として生まれ、奴隷として生涯を終えるはずだったハリエットは逃亡を決意し、あらゆる困難を乗り越えて北部へと逃れる。時に1849年のこと。北部では奴隷制度が廃止されていく時代だった。ハリエットは自分の逃亡が成功した後には故郷に戻って家族を逃がそうとするのだが…。

 映画を見ているわたしは、やがて南北戦争が起きることを知っているから、それまで持ちこたえてよ!と願わずにはいられない。しかし同時に、アメリカ史にとって南北戦争がもっとも多くの戦死者を出した悲惨な戦争であることも想起され、解放のための多くの犠牲に心がふたがれる。

 この映画で特筆すべきはなんといってもハリエットを演じたシンシア・エリヴォの歌唱力だ。ハリエットたちの地下組織は黒人を逃亡させるときに歌を暗号に使った。その歌の素晴らしさが群を抜いている。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされたのも納得。ただ、惜しむらくは作品としての完成度に難があること。わかりやすさを追求したのか、アクション映画としての面白さを追求したのか、深みがいまいち足りない。

 ただし、ハリエットの「主人」であった白人青年の複雑な心理は「それでも夜は明ける」にも共通のものがあり、奴隷への愛憎のあわいがもう少し丁寧に描かれていればなおよかったと思われる。いずれにしても、このように危険を顧みず多くの黒人たちを逃がした女性がいるという驚異の事実を知ることは、今の時代に勇気をもらえることではある。(Netflix)

2019
HARRIET
アメリカ  Color  125分
監督:ケイシー・レモンズ
製作:デブラ・マーティン・チェイスほか
脚本:グレゴリー・アレン・ハワード、ケイシー・レモンズ
撮影:ジョン・トール
音楽:テレンス・ブランチャード
出演:シンシア・エリヴォ、レスリー・オドム・Jr、ジョー・アルウィンジャネール・モネイ、クラーク・ピータース