てっきり19世紀後半の話だと思い込んで見始めたら、「戦後のイタリアでは……」というセリフが出てきて、「え? 戦後? 戦後ってどの戦争?」と頭が混乱しているうちに、画面には「2010年の国勢調査に協力してください」とがなり立てる宣伝カーが登場するので、びっくり仰天した。よもや21世紀の話とは! それほどまでに前時代のイメージが強かった、ど田舎の宗教コミュニティ内の物語。
信じられないことにこの映画は実話に基づいているという。閉ざされたコミュニティに暮らす女たちは学校教育も受けておらず、誰も文字を読むこともできない。21世紀にそんな村が実在するのか?! しかも、彼女たちはみな、村の男たちに睡眠薬で眠らされ強姦されていた。身に覚えのない性行為によって孕(はら)まされた女たち。でも生まれてくる子どもは可愛い。
しかしある時、ついに男たちの犯罪が露呈し、女たちの逆襲が始まった。さていかにして女たちだけの話し合いは進むのか。そして彼女たちが決意した「復讐」とは?
……ちょっと期待していたのとは違う話だった。
女だけの話し合いの中にたった一人男がいて、その会議の記録をとっている。彼は教師であり、村で唯一のインテリ(大学卒)だ。そして、彼だけが女をレイプしていなかったということなのだろう。彼の存在もまた女たちの話し合いの中では不思議な緊張をもたらしている。
男たちに対して、どのような形で復讐するのかしないのか、その方法を巡って激論が闘わされ、結論は投票によって決まる。学のない女たちのはずなのに、理路整然とした語りで思いを述べ合っている姿が印象に残る。そして年老いた女たちの穏やかで静かな語りもまた心に染み入るようだ。
不思議な映画を見た、という思いが強く残る。と同時に、なぜこの結論なのかわたしは納得できないのだが。現実世界の戦争や憎悪や報復というおぞましい状況に対するアンチテーゼのような物語だった。言葉の力を映像で表現するという困難な試みをやってのけたサラ・ポーリー監督・脚本の手腕は高く評価したい。全体に暗い映像なのだが、はっとさせられるようなフラシュバックの挿入や、広大な畑と、狭い納屋から見えるまっすぐで永遠の未来に続くかのような農道など、外部へと開かれ女たちを解放へと導くような画作りがとてもうまい。
アカデミー賞脚色賞受賞。(Amazonプライムビデオ)
2022
WOMEN TALKING
アメリカ Color 105分
監督:サラ・ポーリー
製作:デデ・ガードナーほか
原作:ミリアム・トウズ
脚本:サラ・ポーリー
撮影:リュック・モンテペリエ
音楽:ヒルドゥル・グーナドッティル
出演:ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ベン・ウィショー、フランシス・マクドーマンド