戦前最後の沖縄県知事・島田叡(しまだ・あきら)の知事としての最期の生きざまを記録映像と証言によって構成するドキュメンタリー。
島田は今でいうキャリア官僚なのに、リベラルな思想を持っていたためだろう、内務省の中央省庁には勤務したことがなく、地方を転々としていた。そして大阪府内政部長を務めていた1945年1月、沖縄県知事として那覇に行くように辞令を受け取る。当時の知事は選挙で選ばれるのではなく、辞令によって内務官僚が就いたのである。沖縄の前任知事は出張と称して東京へ行ったきり、沖縄には戻ってこなかったのだ。やむなく島田は死を覚悟して沖縄に赴く。生きて帰れないことは彼も、家族もわかっていた。
沖縄県民を犠牲にし沖縄の言葉を「悪しき方言」と言って使うなと命じた軍は、沖縄の人々をスパイ視していた。島田叡は、住民に犠牲を強いた悪名高い牛島満中将と対立しつつ、一方では協力しつつ、軍に抵抗しきれず、戦争に反対しきれず、結局は流れに棹さして流されてしまった。しかし、彼が最後まで抵抗し拒否したのは、沖縄県民の玉砕である。彼は県職員に、県民に、兵士に、「生きよ」と言い続けた。
戦後の多くの証言が画面に映し出されるのだが、これが本作のために新たに収録されたものなのか、アーカイブ映像なのかがわかりにくいのが欠点だ。撮影時の年代を「●年頃」という曖昧な形でもいいから表示してほしかったものだ。全体としては誠実にかっちり作られているという印象を持つドキュメンタリーであり、つまりは少々淡々とし過ぎているとも言える。
この映画を見て、わたしは摩文仁の丘にはまだ行ったことがなかったことを思い出した。できるだけ早く行ってみたい。
公文書が何度も引用されるところ、手紙などのアーカイブズが多用されるところは、まさにアーカイブズ映画の真骨頂だ。一人でも多くの人にこの映画を見てほしい。(Amazonプライムビデオ)
2021
日本 B&W/C 118分
監督:佐古忠彦
プロデューサー:藤井和史、刀根鉄太
撮影:福田安美
音楽:兼松衆、中村巴奈重
主題歌:小椋佳 『生きろ』
語り:山根基世、津嘉山正種、佐々木蔵之介