吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

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 12年前に「アバター」を見たとき、その感想としてわたしは、「先住民を虐殺したアメリカ建国のトラウマを癒す物語。世間では3D映像の技術的なことばかりが取りざたされるが、この映画は<国民の歴史><アメリカ人の記憶>を鎮める役目を果たす映画なのだ。トラウマをなぞることによって傷を癒す。これはアメリカ人の良心に訴えその血塗られた建国神話を正すことによって治療するトラウマ映画の典型だ」と書いた。

 そして12年ぶりの続編はやはり同じ路線である。同じ路線だから同じ話で、要するに同じ構造で代わり映えなし。違いと言えば、惑星パンドラの山の民だった先住民に海の民というバージョンが加わったということ。それから、主人公ジェイクが先住民ナヴィの娘を愛して3人の子どもをもうけたこと(それに加えて養女も迎えた)。ほかは、アバターらしさがなくなって、元の人間の存在が希薄になっていること。前作のストーリーをほぼ完全に忘れているので、そもそも元海兵隊員だったジェイクは、「本人」とアバターの関係をどう清算したのだったか? 本人が死んだりアバターとの回路が切れるとアバターは動きを止めてしまうのではなかったのか? うーむ、基本構造を呑み込めていないのでいまいちよくわらかない話になってしまったよ、今作は(映画鑑賞後にWikipediaで前作のストーリーを確認した。事前に復習しておけばよかった。ジェイクはパンドラの神エイワの力によって最後に本人の意識を全部アバターに移行し、アバターが新たなジェイクとして再生した)。

 パンドラの海の描写が大変すばらしく、ほとんど水族館を満喫している気分。地球上に存在しない不思議な海洋生物がたくさん登場して観客を楽しませてくれる。劇場用パンフレットを購入したところ(なんと1650円もする!)、これが百科事典のような作りになっていて、登場人物や小道具大道具の解説が満載。画面では一瞬しか登場しなかったようなガジェットまで実に丁寧に作りこまれていることがわかって感動した。ほんとに手が込んで金がかかっている映画である。

 海の生物とナヴィたち先住民との魂の交流もしみじみと温かく、どうやって意思疎通をしているのかと思うけれど、言葉が通じているところがナヴィに都合のいい展開。ナヴィたちを助けてくれるこの巨大な海洋生物は鯨かイルカであろう。この惑星は生命全体が意識を共有できるという特徴を持っていたことをやはり鑑賞後に思い出した。

 3Dの良さをあまり実感できないというのは前作と同じ。別に3Dで見なくてもよかったのではないかと思える。あと、戦闘シーンが続くとわたしは飽きてしまうので、途中若干居眠りしていた。

 クライマックスの沈没シーンは「タイタニック」を思い出させる。さすがはジェームズ・キャメロンと思わせる迫力があった。しかしこの映画が他の日本映画に負けて興行成績一位を採れない理由もわかる。だって、ナヴィの造形が苦手な人も多そうだ。

 他に気になる点は、やたらに「家族」が強調されていたところ。「サリー家は一致団結」とか何度もスローガンを唱えるところは気色悪い。これはアメリカ社会の保守回帰の現状を反映しているのだろうか。

 今から映画館へ行く人はまずは前作を復習しておくことを強くお勧めします。

2022
AVATAR: THE WAY OF WATER
アメリカ  Color  192分
監督:ジェームズ・キャメロン
製作:ジェームズ・キャメロン、ジョン・ランドー
脚本:ジェームズ・キャメロン、リック・ジャッファ、アマンダ・シルヴァー
撮影:ラッセル・カーペンター
音楽:サイモン・フラングレン
出演:サム・ワーシントンゾーイ・サルダナシガーニー・ウィーヴァースティーヴン・ラングケイト・ウィンスレットクリフ・カーティス、ジェイミー・フラタース、ブリテンダルトン