世に名高いドレフュス事件の真相を追う物語。巻頭に「本作はすべて史実である」という文字が流れる。
主人公はドレフュスの元教官であった陸軍大佐ピカールである。ユダヤ人という理由だけでスパイの冤罪を着せられたドレフュス大尉が軍籍を剥奪される式の場面から映画は始まる。実に屈辱に満ちた儀式である。最後まで無実を叫ぶドレフュスであったが、彼は終身刑を言い渡され、アフリカの離島に投獄された。
この冒頭の場面の一つずつの描写が丁寧かつ緊張感にあふれている。全体にとても引き締まった、そして落ち着いた演出に好感が持てる。1984年に冤罪で投獄されたドフュスが釈放されるまで5年かかり、最終的に無罪となるまで実に12年もかかっている。その間、真実を追求する粘り強い闘いが続けられていた。
真相へと至る主人公ピカール大佐は、人妻と寝るが職務には忠実な男だった。ドレフュスが有罪となった後、さして関心を示す風もなかったのだが、諜報室長に就任するや、庁舎の弛緩しきった雰囲気の刷新に着手する。ある日ドイツのスパイ活動の証拠と思しき書簡を入手したピカールは、その筆跡がドレフュス事件の証拠とされたメモの筆跡にそっくりであることに気づいた。ここからピカールの粘り強い調査が始まる。
ピカールが決定的な証拠をつかんでもなお陸軍上層部はスキャンダルを恐れ、威信の低下を恐れて冤罪を認めようとしない。それどころかピカールは左遷され、投獄までされてしまうのだ。それでも彼は筋を曲げず、さらには反冤罪・反ユダヤ差別のキャンペーンを張るビクトル・ユゴーやエミール・ゾラたちと行動を共にする。
新聞による論戦の数々も大変生々しく緊張にあふれ、裁判の場面も手に汗握る。長さをまったく感じさせない重厚な演出が光っている。しかも、ピカールを演じたジャン・デュジャルダンがこれまでのどんな作品よりも役にはまっていて、正義の味方というだけではない複雑な人間性を表出させている。
そしてこれはアーカイブズ映画。公文書偽造の物語でもある。また、筆跡鑑定人の事務所には大量のボックスファイルが書棚に収納されていて、過去の調査文書がきちんと保存されている。さすがはフランス。
観終わって初めてポランスキー監督作であることを知った。この素晴らしい映画がポランスキー作品というのが実に残念だ。なぜ彼がフランスでは映画を製作できるのか? しかもセザール賞監督賞まで受賞できるとは。しかしセザール賞受賞式では、女優アデル・エネルが激怒して退席してしまった。そういういわくつきの作品でもある。ベネチア映画祭で銀獅子賞(審査員賞)も受賞している。(レンタルDVD)
2019
J'ACCUSE
フランス / イタリア Color 131分
監督:ロマン・ポランスキー
製作:アラン・ゴールドマン
原作:ロバート・ハリス
脚本:ロバート・ハリス、ロマン・ポランスキー
撮影:パヴェウ・エデルマン
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:ジャン・デュジャルダン、ルイ・ガレル、エマニュエル・セニエ、グレゴリー・ガドゥボワ、メルヴィル・プポー、マチュー・アマルリック