吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

とんび

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 2度テレビドラマ化されて、今度は映画。三度も映像になっているのだから、原作小説はさぞや売れたのだろう。

 で、今度は瀬々敬久監督。瀬々さんはいつから人情物の人になったんだろう。いやまあ、実にうまいじゃないですか。何度も泣かされましたよ。泣きのツボが押さえられた演出で、ほんとにいいねぇ。

 あらすじは、とんびが鷹を生んだという父子もので、瀬戸内の港町に住むトラック運転手の父親が男手一つで育てた息子が早稲田大学に合格して晴れて都へ上るという感動もの。

 この父親が昔気質の人間で、でも「巨人の星」の星一徹のようなスパルタはしないし、人を殴ることも良しとしない。そういう意味ではけっこう21世紀的な父親像ではないか。DV親父なんか主人公にしたら昨今では政治的に正しくないということになるであろう。被爆孤児だった母親が若くして亡くなってしまい、同じく孤児同然というか実父に捨てられた父親が一人息子をがむしゃらに育てていく。男手一つというが、実は周囲の人たちに見守られ、地域共同体の中で育てられていく息子。すくすくとよい子に育ち、親の期待以上の者になった。この共同体のありかたが本当に心地よい。田舎町だからありえた絆なのだろうか。

 息子は早稲田大学を出て編集者になり、やがて結婚相手を父親に紹介するのだが……。原作者重松清自身の自伝的作品なのだろう。事実を少しは変えてあるようだが、息子が見た父親への最大限の愛情表現が随所に現れていて、武骨な父への賛歌となっている。昭和な父親への令和の賛歌、という日本人の琴線に触れるような大団円。結末がわかっていても泣かされる。(Amazonプライムビデオ)

2021
日本  Color  139分
監督:瀬々敬久
製作:堀内大示、藤田浩幸ほか
原作:重松清
脚本:港岳彦
撮影:斉藤幸一
出演:阿部寛北村匠海、杏、安田顕大島優子濱田岳宇梶剛士尾美としのり田中哲司豊原功補嶋田久作麿赤兒麻生久美子薬師丸ひろ子