吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

めぐりあう日

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 エリザは理学療養士。どこか冷ややかな印象を受ける美しい彼女は8歳の息子と一緒にパリからダンケルクに引っ越してきた。パリには夫を残していて、もはや夫とは修復不可能な別居のように見える。養父母に育てられたエリザは実の親を探して故郷に戻ってきたのだった。どうしても会いたい、実母に。その手がかりを得るために自分が産まれた街に戻り、関係機関にかけこみ調査を依頼する。しかし個人情報は簡単には開示されない……。

 主人公を演じたセリーヌ・サレットはシャーロット・ランプリングの娘かと思ったぐらいに面差しがよく似ている。氷の美貌とも呼ぶべき、冷酷な印象を与える美人顔だ。だがその冷たさは彼女の閉ざされた心からあふれ出てくるものなのだろう。寡黙で、しかし親を求める気持ちだけは熱くほとばしり、その感情を抑えきれずにいる。やっと見つかった母は自分が思っていたような女ではなかった。おそらく、もっと美しい女性を想像していたのだろう。目の前にいる、体の線が崩れてたるんだ疲れた表情の底辺労働者が夢にまでみた母親だなんて。

 しかし、母がなぜ自分を捨てたのか、なぜ匿名出産したのか、そのいきさつを聞いたことが彼女の中になにかを生んだ。

 この映画でとても印象深いのはエリザの手つきだ。その美しく長い指と手で患者の身体を優しく撫でるようにマッサージしていく様子がとても心地よく見える。わたしもマッサージしてほしいと思わず画面に食いつきそうになった。彼女の患者としてやってきた中年女性が実は母だったと観客にはすぐにわかるのだが、そのことをエリザが知るまでの時間がじっくり描かれていく。

 移民への差別、未婚の母への差別、幾重にもなった差別の結果、エリザは実母に育てられることがなかったのだった。これは自らが国際養子として韓国からフランスへと渡ったウニー・ルコント監督には避けて通ることのできないテーマなのだろう。

 音楽がとても美しい。(Amazonプライムビデオ)

2015
JE VOUS SOUHAITE D'ETRE FOLLEMENT AIMEE
フランス  Color  104分
監督:ウニー・ルコント
製作:ロラン・ラヴォレ
脚本:ウニー・ルコント、アニエス・ドゥ・サシー
撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
音楽:イブラヒム・マールフ
出演:セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノワ、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、フランソワーズ・ルブラン、エリエス・アギス