吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

老後の資金がありません!

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 老後は一人2000万円を用意しろとどこかの国の大臣が偉そうに言っていたことを思い出す。それは2019年に金融庁が発表した報告書に書かれていたこと。しかし今や、2000万円でも足りないというではないか。65歳までに4000万円を貯蓄しておく必要があるとか。そんなの絶対に無理。

 この物語は、老後の資金を貯めるべく節約している五十代の夫婦に巻き起こる、予想外の出費の数々、失業の嵐、そこからの奮闘を描くコメディ。まずは夫婦の父の葬儀で余計な見栄をはったばかりに出費がかさむ。そのうえ夫婦そろって失業してしまい、独りになった母親を引き取ることになる。しかし元来が贅沢好きな母は金がなくても使ってしまう。そうこうしているうちに、なけなしの貯金はどんどん目減りして……。

 この老母が草笛光子である。この人、年をとってますます美しくなっているではないか。こんなおばあさん見たことないわ。その息子の妻が天海祐希。宝塚ネタも台詞にぶちこんであって、思わず笑ってしまう。つつましく暮らしていた息子夫婦なのに、贅沢に慣れた老母がやってきてすっかりリズムが狂ってしまう。この貧富の格差というか金銭感覚の違いがまた笑いのネタ。そのうえ、「年金詐欺」という奇想天外なネタまで仕込んであって、これはもう爆笑するしかない。

 老親の世話をめぐるきょうだいの争いやら、オレオレ詐欺やら、昨今のさまざまな家族問題・社会問題が盛りだくさんで、笑っているうちに最後はほろりとさせられる人情お笑い劇。しかし、結論が気に入らないねえ、わたしは。

 天海祐希が元宝塚トップのオーラを消して、庶民の主婦をほんとうにそれらしく演じているのが上手い。そして何よりも草笛光子、彼女を見るためだけにもこの映画は見るべき! 最高に魅力的だった。老後はかくありたい。(Amazonプライムビデオ)

2020
日本  Color  115分
監督:前田哲
原作:垣谷美雨
脚本:斉藤ひろし
音楽:富貴晴美
出演:天海祐希松重豊新川優愛瀬戸利樹加藤諒柴田理恵若村麻由美竜雷太藤田弓子哀川翔毒蝮三太夫三谷幸喜草笛光子