吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

希望のかなた

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 アキ・カウリスマキ監督の作品は久しぶり。どんなふうに作風が変わったのかと楽しみにしていたら、これがまったく相も変らぬカウリスマキ調大展開。巻頭からしばらくののんべんだらりぶりにちょっと眠気を催し始めたころ、主人公のシリア難民とフィンランドの料理店オーナーが出会うこととなる。ここからが怒涛のオフビート展開!(語義矛盾)

 いやもう、たまりません、はらはらどきどき、笑えそうで笑えないジョークの数々。料理店が儲からないからメニューを変えようと、「今のトレンドは寿司だ!」といきなり寿司屋に変身するレストラン。ここはもう目が点になるお笑い箇所だ。

 さてあらすじは。シリアからの難民カーリド青年はフィンランドにたどり着くが、難民申請を却下されて強制送還の危機に遭う。やむなく収容施設を脱走したカーリドは偶然出会ったレストランのオーナーであるヴィクストロムに拾われ、オープンしたばかりの店で働かせてもらえることになる、という、難民・移民、人種差別という社会問題を大きなテーマに、でもそれらの問題を笑い飛ばすような人情味篤い人々の面白おかしい日常風景が描かれていく。

 カウリスマキ監督の常連役者たちがゾロゾロと登場するので、彼らが画面に出てきた瞬間にもう笑いそうになる。どう見ても役者の華がない中年ばかりがキャスティングされ、たまに若い女性がいてもまったく冴えないぽっちゃり体型の不愛想なウェイトレス、という役どころ。

 カウリスマキの作品は観客の好悪がはっきりするので、相性が悪い人は全然受け付けないだろう。わたしも、これまで「いまいちやなあ」と思いながら見てきたのだが、この作品はこれまでで一番面白く見ることができた。難民問題という焦眉の社会問題を取り上げたことに関心を惹かれたことが一つの要因だろう。

 しかし、「希望のかなた」と言いながら、希望がなさそうなラストシーンはとても悲しい。現実はあまりにも厳しいということか。(Amazonプライムビデオ)

2017
TOIVON TUOLLA PUOLEN
フィンランド  Color  98分
監督:アキ・カウリスマキ
製作:アキ・カウリスマキ
脚本:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン、シーモン・フセイン・アル=バズーン、カイヤ・パカリネン、ニロズ・ハジ