吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ハーツ・アンド・マインズ/ベトナム戦争の真実

https://eiga.k-img.com/images/movie/55465/gallery/ham_main_large.jpg?1424402228

 この映画はベトナム戦争が終わる前に作られているので、撤退の様子は映っていない。兵士たちの生々しい証言が胸を打つ。今では有名になったベトナム人たちが逃げ惑う姿の映像(世に知られているのは静止画)が改めて映し出されて、こういう画は見飽きるとか見慣れるということがない、とつくづく思う。実際に南ベトナム解放戦線の兵士が頭を撃ち抜かれる場面など、よく撮ったな、と驚いてしまう。血がびゅーっと頭から吹き出る場面の衝撃には思わず「げっ」と声が出てしまう。

 「(ベトナムでの)最終的な勝利は、実際に向こうで暮らしているベトナム人の意欲と気質(Hearts and Minds)にかかっているだろう」というジョンソン大統領の演説が本作のタイトルとなっている。

 インタビューに答えているのは政府高官、傷病兵、反戦を訴える若者、ベトナム戦争は正義だと訴える帰還兵、兵士の母や恋人、ベトナム人の棺桶職人、戦うベトナム人、などなど。どうやって撮影したのか不思議に思う映像が次々と登場する。

 全体としてはもちろん反戦映画なのだが、生々しい映像が多すぎて、その合間にニュース映像が挟まり、どこまでがオリジナルな撮影なのかがわかりにくいのが難点と感じた。ただ、この映像を当時見た人たちには相当な衝撃を与えたに違いないだろう。

 もちろんこの映画を見て「もう一回戦争をしよう」と思う人などいないと信じたいが、「今の戦争はもっときれいだから」という意見がもしあるとすれば、とんでもない間違いだと言いたい。どんな戦争でも命がやりとりされることに違いはない。その命が自分の大切な人だったら? その想像力を働かせること、そのための力を観客に与えること、これがこの映画の目的と存在意義と思える。消費することを許さない作品というのはいつの時代にもあるのだ。(レンタルDVD)

1974
HEARTS AND MINDS
アメリカ 110分
監督:ピーター・デイヴィス
製作:バート・シュナイダー、ピーター・デイヴィス