モノクロで描かれるホロコーストの凄惨。これはホロコーストというよりも、もっと根源的な人間の悪について描いた映画だ。だからこそ舞台を特定の国に限定せず、主人公の少年の名前も不明なままだった。ホロコーストは人間の悪の部分の一つの象徴であって、この映画を見る限り、人はとにかく悪い生き物であるという言葉しか思い浮かばない。
ホロコーストを逃れた少年は匿われていた疎開先の家を失くし、流浪の旅に出る。孤独な旅の途中で立ち寄った村々で搾取と虐待を受け、暴力の被害を受けるだけではなく、目撃者にもなる。描かれているのはドイツ軍のそれだけではなく、ソ連コサック兵の情け容赦ない暴虐もまたしかり。そして無辜の民のはずの田舎の人々の差別・迫害・暴力もまた剥きだしにされる。
逃げ場のない暴力と虐待の連鎖を見せつけられる、何も楽しくない映画だ。しかも音楽もついていない。ところがちゃんと最後まで見ていられるというすさまじさ。編集が巧みなので、場面のつなぎがスムーズで余計なカットが入っていない。とはいえ、実は見終わって一か月も経てば細部はすっかり忘れてしまっている映画なのだ。なんということだろう。つまりは、「忘れてしまった」というよりは、「忘れたい場面が多すぎる」映画なのだ。怪作である。(レンタルDVD)
2019
THE PAINTED BIRD
チェコ / ウクライナ / スロヴァキア 169分
監督:ヴァーツラフ・マルホウル
製作:ヴァーツラフ・マルホウル
原作:イェジー・コシンスキ
脚本:ヴァーツラフ・マルホウル
撮影:ウラジミール・スムットニー
出演:ペトル・コトラール、ウド・キア、レフ・ディブリク、イトゥカ・ツヴァンツァロヴァー、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル