007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
タイトルはどう訳すべきなのだろう? 「死ぬべき時じゃない」なのか、「死んでる暇はない」なのか? どっちにしても、ダニエル・クレイグが演じるジェームズ・ボンドとはこれでお別れなのだ。壮絶な最期であった。これでシリーズそのものが終わるのだろうか。いやいや、ボンドは帰ってくるって最後にテロップが出たじゃないの。
と、いきなりネタバレ全開モードだけれど、このシリーズはダニエル・クレイグが主役になってからはシリアスな作風になり、「カジノ・ロワイヤル」で泣かされたわけだが、その後も話がずっと続いているから前4作全部見てないとわからないよね。わたしは不覚にも「スカイフォール」は途中で寝てしまったので話がよくわからない。寝てなくてもその他のストーリーもほぼ覚えていない。もう一度全部見直してみたい。
今回は、イタリアで恋人マドレーヌとゆったり休暇を楽しんでいるジェームズ・ボンドがいきなり吹き飛ばされそうになるところから始まる。いやその前に、少女が能面男に襲われて氷の湖面に落ちちゃうところから。とにかく最初から何度も何度も見せ場が盛り上がるので、最後のほうは疲れてしまった。最終話だからというサービス精神がたっぷりである。
今回は能面男のラミ・マレックが悪役なんだけれども、中途半端によい人ぶったりしてしまうところがいまいち。クリストフ・ヴァルツが刑務所に収監されている場面なんか、ほぼレクター博士。レクター博士みたいに人に嚙みついたりするのかと恐れながらも期待したけど、そういうこともない。どうにも怖さが中途半端なのがいかん。クリストフ・ヴァルツの無駄遣い。
しかし、舞台が南米に飛んだところでCIAの新人さんが登場して、これがアナ・デ・アルマスだということにわたしはまったく気づかなかったのだが、すごい色気とアクション! 拍手喝采ものです。そのあと、場面が世界中の楽しいロケ地を回るという豪華版で、もちろんカーチェイスもバイクチェイスもたっぷり大サービス。その上驚くべきことに新しい007も登場して、これまた昨今の風潮を反映して、ポリティカル・コレクトネスに配慮している。日本の「北方領土」が登場したときにはのけぞったし、日系監督の日本びいき(?)の不思議な和テイストもなんともいいがたいお笑い場面なような気がした。
いろいろけなしたり褒めたり忙しい本作だが、最後はやっぱり泣かせてくれます。
そうそう、レミ・マレックが座っていたけったいな和室に敷いてあった畳は西日暮里にある森田畳店の畳112枚が使用されているということでTwitterで話題になっていた。
今回、人類滅亡の最終兵器は細菌兵器だというところが21世紀的である。コロナ禍よりも前に撮影された作品ではあるが、現実味があった(お話は荒唐無稽)。
ボンドの最後の台詞はちょっと訳しすぎじゃないのかな、戸田奈津子先生。
ところで、この映画で注目は「007」が表象するもの。もともと単なるコードにすぎない「007」という数字に何の意味があるのか、と根源的な問いを発する台詞があり、これは哲学的だなと思った。ジェームズ・ボンドという表象もまた映画の役名を超えて同時代に訴えるなにかがあると思える。だれかこの点に言及しているかも。
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
2020
NO TIME TO DIE
イギリス / アメリカ Color 164分
監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
製作:マイケル・G・ウィルソン、バーバラ・ブロッコリ
脚本:ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、キャリー・ジョージ・フクナガ、フィービー・ウォーラー=ブリッジ
撮影:リヌス・サンドグレン
音楽:ハンス・ジマー
主題歌:ビリー・アイリッシュ
出演:ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レア・セドゥ、ラシャーナ・リンチ、
ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、ジェフリー・ライト、クリストフ・ヴァルツ