吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ジャコメッティ 最後の肖像

変人その1のアルベルト・ジャコメッティ晩年の物語。彼の肖像画のモデルになった若きライターの作品が原作になっている。ジャコメッティの変人ぶりが余すところなく描かれていて、そんじょそこらのコメディよりも面白い。 ジャコメッティのアトリエ兼自宅が…

マーシャル 法廷を変えた男

主役のチャドウイック・ボーズマンが去年の8月に42歳で亡くなった。本作は、癌治療の合間を縫って撮影されたらしい。そう思うと感慨深くも悲しい。 「アフリカ系アメリカ人として史上初めてアメリカ合衆国最高裁判所の判事に任命された弁護士サーグッド・マ…

東京自転車節

都会ではすっかりお馴染みの光景となったウーバーイーツの配達員がひたすら自転車で走り回る、というドキュメンタリー。アメリカからやってきたこの仕事、ギグワーカーと片仮名で呼べばかっこういいように聞こえるかもしれないが、とんでもなく悲惨な仕事で…

マイ・インターン

これは女性から見た理想の男性像を描いた物語だ。主人公は70歳の退職老人・ベン。彼はシニア・インターン制度を敷いた急成長アパレル会社に採用されることとなった。妻を亡くし、一人暮らしで生きる目標もなかったベンは新しい職場に喜んで出勤する。一方、…

Dr.パルナサスの鏡

こういうファンタジーは映画館の大画面で見てこそ! 残念ながら自宅のテレビモニタでは迫力に欠けるのである。 パルナサス博士は年齢1000歳を超えているれっきとした老人なのだが、悪魔と取引して若返り術を施し、愛した女性と結ばれて娘をもうけた。しかし…

プロミシング・ヤング・ウーマン

原題は「未来を約束された若き女性」という意味。これは、実際のレイプ事件で有罪となった若者に判事が述べた言葉から取られている。「未来のある若者にこんなレイプ事件で汚点をつけて将来を台無しにさせてはいけない」という美しい配慮の言葉だ。男にはそ…

女帝 エンペラー

五大十国時代の中国宮廷を舞台に陰惨な復讐劇が繰り広げられる。「ハムレット」を原案とするだけあって、話がとにかく暗い。しかし美術は豪華で格式高く、衣装やセットを見ているだけで満足できる作品だ。演出は重々しく、悲劇の色合いと残虐な刑の執行やら…

ヒトラーに屈しなかった国王

1905年にノルウェーがスウェーデンから独立して立憲君主制を敷くことを国民が選択し、デンマークから国王を迎えた、ということを初めて知った。ノルウェーの歴史をほぼ知らない自分の無知に改めて驚く。ノルウェーだけではない。北欧の国々の歴史どころか地…

ニューヨーク・ニューヨーク

30分カットして120分で収めてあれば、かなりよい作品になったであろう。しかし、ライザ・ミネリの歌唱が素晴らしいので、そこまでの冗長な物語は全部我慢我慢。逆に、「やっとでたか、ライザの歌!」って感じで感動もひとしおである。後半はライザ・ミネリ演…

シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア

なんとも不思議な映画だ。ニュージーランド映画そのものを見る機会があまりないのに、初かもしれないニュージー作品がこれでは、かの国に対して偏見が生まれそうだ。全編とにかく妙な映画で、コメディなんだけれど笑いのツボがかなり日本人とは異なる。面白…

トルーマン・カポーティ 真実のテープ

トルーマン・カポーティの名前は知らなくても、映画「ティファニーで朝食を」(61年)を知っている人は多いだろう。たとえ映画を見たことがなくても、ヘンリー・マンシーニが作った主題歌「ムーンリバー」はどこかで聞いたことがあるはずだし、オードリー・…

マダムのおかしな晩餐会

舞台はフランスだが、主人公はアメリカ人の富裕層とそのスペイン人メイド。という、国際色豊かな物語なので、それぞれの「国民性」が出ているとも言える。 アメリカ人の富豪夫妻がパリに引っ越ししてきたばかり。彼らは上流層の友人たちを招いてディナー・パ…

スパイの妻<劇場版>

2020年11月に劇場鑑賞。 黒沢清監督の作品は個人的には当たり外れの差が激しいと思っている。近年は外れが多くて、本作も途中までは「また外れたかぁ~」と思っていたのだが、最後にあっと驚く展開になったので、そこまでの外れ感が帳消しになった。 黒沢清…

リンドグレーン

「やかまし村の子どもたち」の原作者、アストリッド・リンドグレーンの若き日を描いた伝記映画。実はわたしはリンドグレーンの出世作の「長くつ下のピッピ」を読んだことがない。そもそも子どものころに絵本をほとんど読んでいないし、児童文学もあまり好き…

ウォーム・ボディーズ

異色のゾンビもの。 どういう経過か知らないが、世の中にゾンビ病が蔓延して8年後という設定になっている。もはや世界中に生き乗った人々はわずかにNYに居るのみ。ていう設定からしてもう全然意味不明なんですけど。なんでガソリンあるんですか。なんで電気…

昔々、アナトリアで

オープニングクレジットが終わったあとの巻頭ロングショットの美しさには息を飲む。薄暮のアナトリアの丘陵地帯。画面のど真ん中に少し寂しそうな、それでいて存在感のある木が1本。くねくねと曲がった道をライトを輝かせながら走ってくるのが3台の自動車で…

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

子どもの頃に大好きだった「若草物語」。わたしはもちろん自分自身を次女・ジョーに重ねて読んでいた。男勝りで活発で気の短いジョー、文才があって男に頼りたくないと思っている彼女がわたしの目指すべき憧れの存在に思えたものだ。 だから、50年ぶりに本作…

9人の翻訳家 囚われたベストセラー

プルースト『失われた時を求めて』、これが本作の最大のギミックではなかろうか。実はこの世界史に残る名作といわれている小説を私は読んでいない。同時にこの映画で言及されているジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』をわたしは邦訳1巻だけ読んで途中放棄し…

アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン

1972年に一度は劇場公開映画として(映像内では「テレビ放送用」と語られている)シドニー・ポラックによって撮影されたものの、技術的な問題が発生して完成しなかったライブ映像が、ようやく映画として完成された、というもの。よくぞこのお蔵入りフィルム…

中島みゆき縛りで映画ができるとは! まるで「マンマ・ミーア!」みたいではないか。しかしよく考えてみたら、中島みゆきの曲にはドラマがあるし人生が語られているし哲学や思想が宿っているのだから、十分物語を作ることは可能なのだ。 してこの物語は、北…

スーパーノヴァ

あっという間に公開が終了してしまった残念作。渋くてよかったのに。 「スーパーノヴァ」は超新星のこと。 役者二人の演技を見る映画だから、ストーリーにはあまり関心がなかったのだが、それでもちょっとどうかと思えるほどに情緒的な内容だ。特にラストシ…

花束みたいな恋をした

恋の始まりから終わりまでの5年間を丁寧に、かつテンポよく描いていく青春物語。見ていて恥ずかしくなるような場面も多いが、なかなか小気味よかった。「500日のサマー」にも似ている。 別れた二人が偶然再会してしまう冒頭、二人の出会いの時の5年前に時計…

罪の声

グリコ森永事件を基にしたフィクション。緊迫感に満ちて、なかなかよくできたサスペンスだ。これは原作がしっかり描けているからだろう。 星野源は関西出身でもないのにかなり上手に関西弁を操っているし、小栗旬はいかにも人の良い文屋らしい演技で、先日見…

カミーユ

劇場未公開作。 戦場カメラマンだった若きフランス人女性の生きざまを追う。 巻頭、アフリカ中部の草原が写る。トラックの荷台に積まれた「荷物」を検問のフランス人兵士が見る。「5人の遺体を発見した。その中に白人の女性が」。そして物語は過去にさかのぼ…

ファーザー

個人的にはこれ以上ないぐらいに身につまされた作品だ。認知症の人間の感覚をこんなふうに描けるとは、驚く以外にはない。あまりにも素晴らしい脚本に感嘆して、映画を見ている途中で「これはすごい、この脚本はきっとアカデミー賞を獲っただろう」と確信し…

顔たち、ところどころ

この映画の魅力を堪能するためには大きなスクリーンで見るしかない。残念ながらわたしは自宅のテレビモニターで鑑賞したのだが、それでもiPadで見るより遙かに感動することができたのだから、やっぱり画面は大きいに限る。 ゴダールと同世代の女性監督である…