吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

Dr.パルナサスの鏡

https://eiga.k-img.com/images/movie/53215/photo/d065bbc7db5c5d68.jpg?1495095840

 こういうファンタジーは映画館の大画面で見てこそ! 残念ながら自宅のテレビモニタでは迫力に欠けるのである。

 パルナサス博士は年齢1000歳を超えているれっきとした老人なのだが、悪魔と取引して若返り術を施し、愛した女性と結ばれて娘をもうけた。しかしパルナサスは悪魔と、「娘が16歳になったら引き渡す」という契約を結んでいたのだ。そして今日は娘の16歳の誕生日。果たして亡き妻そっくりに美しく育った娘は悪魔にさらわれてしまうのだろうか?

 というお話。パルナサス博士は若き助手を雇い、小人の男を従え、娘も一緒に一座を組んで、まるで古(いにしえ)のサーカス一座のような移動小屋と一緒に各地を転々として見世物を行うことにより生活している(たぶん)。パルナサス博士は鏡を使って人々の夢にとりつき、その人に一瞬の夢の世界を実現させる超能力を持っているのだ。パルナサスの鏡の世界に入り込んだ人々は幸せのあまり全財産を博士に与えてしまう。そんな博士の能力をもってしても、悪魔の手から娘を守ることは難しい。

 なにしろ夢の世界を実現するのだから、極彩色の画面は派手派手派手派手で、目まぐるしい展開を見せる。時空を超えていく物語は映画でなくては表現できない。そしてここにパルナサスと並び立つ主人公トニーがいて、その役を亡きヒース・レジャーが演じているのである。よく見るとヒース・レジャーって男前やんか! 演技力も抜群だったのに若くして亡くなってしまって本当に残念だ。

 この映画はお蔵入りになりそうだったのだが、ヒース亡きあと、彼の役を引き受けたジョニー・デップジュード・ロウコリン・ファレルがそれぞれ4人1役で演じきったために、本作は完成できたのである。一人を4人で演じるというのも面白いが、この映画が順撮りしていないことがわかってそれも興味深かった。途中でいきなりトニー役がジョニー・デップに代わったと思ったら次にジュード・ロウになり、最後はコリン・ファレルが出てくる。コリン・ファレルになるとさすがにヒース・レジャーとは全然似ていないから別人が演じていることがわかるのだが、ジョニー・デップに代わった当初はあまり違和感がなかった。で、コリンが出てきてこのまま終わるのかと思ったら、またまたヒース・レジャーが登場する。あ、このシーンまででヒースは死んだのではなくて、先の場面も撮っていたのね、とわかる。舞台裏を覗いた気分になって少し高揚した。こんな些細なことが映画ファンはうれしいのである。

 というわけで、お話はおとぎ話で、別に面白いこともなく、この話からなにか構造的な面白さを文化人類学者や社会学者なら引き出すだろうが、わたしはそんなことよりも死んだ友人の後を継いで役者たちが演じきったという、その点にこそ惹かれる。なかなか楽しかった。(Amazonプライムビデオ)

 2009
THE IMAGINARIUM OF DOCTOR PARNASSUS
イギリス / カナダ Color 124分
監督:テリー・ギリアム
製作:ウィリアム・ヴィンスほか
脚本:テリー・ギリアム、チャールズ・マッケオン
撮影:ニコラ・ペコリーニ
音楽:マイケル・ダナジェフ・ダナ
出演:ヒース・レジャークリストファー・プラマージョニー・デップジュード・ロウコリン・ファレルリリー・コールアンドリュー・ガーフィールドトム・ウェイツ