吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

プロミシング・ヤング・ウーマン

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 原題は「未来を約束された若き女性」という意味。これは、実際のレイプ事件で有罪となった若者に判事が述べた言葉から取られている。「未来のある若者にこんなレイプ事件で汚点をつけて将来を台無しにさせてはいけない」という美しい配慮の言葉だ。男にはそのような配慮がなされるのに、女には? 女には配慮がないのか? 女の将来は約束されていなくてもいいのか?

 キャリー・マリガンがその愛らしい童顔で恐るべき復讐を淡々とこなしていく頭の良さを最大限に発揮する主人公を、あまりにもチャーミングに演じているので背筋が凍る。

 夜な夜なバーに現れては泥酔したふりをして、そんな彼女をまんまと「お持ち帰り」する男たちに恐怖を与えるサイコパスな女が、主人公のキャシー。彼女はもうすぐ30歳だが恋人も友達もいない実家暮らしで、医大を中退して今ではしがないカフェの店員だ。なんで彼女が医大を中退することになったのか? それは徐々に明らかになっていくのだが、彼女の親友のニーナが同級生たちにレイプされたことがきっかけだった。

 そんな彼女の前にある日偶然、医大時代の同級生の男性が現れる。彼の名はライアン、今では小児科医だ。ライアンは学生時代からキャシーが好きだったと告白する。二人はつきあうようになるのだが、二人の幸せはいつまで続くのだろうか……。

 この恐るべき復讐劇には勝者がいない。だからすかっと爽やかに劇場を去ることができない。映画はブラックコメディのような、ラブロマンスのような、ホラーのような、いくつもその顔を変えていくので、先が読めない。そして特筆すべきは劇伴。音楽が強烈に効果を発揮して、身の毛もよだつほど恐ろしい。

 もはや誰が被害者で誰が加害者かも判然としないような展開になっていくこの映画を見ながらわたしは「告発の行方」(1988年)を思い出していた。女の敵は男だけではない。女に敵対する女もキャシーの復讐の手に落ちる。

 アカデミー賞脚本賞を受賞したエメラルド・フェネル監督の手腕が見事だ。細部では腑に落ちない部分もあるけれど、デビュー作でこんな作品を撮ってしまったら次はどうするんだろうと心配になる。

 後で気づいたのだが、本作を見た夜はオリンピックの開会式の日だった。わたしも含めて開会式に興味のない人が映画館に来ていた、ということかな?

2020
PROMISING YOUNG WOMAN
イギリス / アメリカ Color 113分
監督:エメラルド・フェネル
製作:マーゴット・ロビーほか
製作総指揮:キャリー・マリガンほか
脚本エメラルド・フェネル
撮影:ベンジャミン・クラカン
音楽:アンソニー・ウィリス
出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリークランシー・ブラウン、ジェニファー・クーリッジ、ラヴァーン・コックス、コニー・ブリットン