吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

トルーマン・カポーティ 真実のテープ

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 トルーマン・カポーティの名前は知らなくても、映画「ティファニーで朝食を」(61年)を知っている人は多いだろう。たとえ映画を見たことがなくても、ヘンリー・マンシーニが作った主題歌「ムーンリバー」はどこかで聞いたことがあるはずだし、オードリー・ヘプバーンが長い煙管を持っているポスターはあまりにも有名だ。

 その映画の原作を書いたのがカポーティである。彼は10代の頃から小説を書き始め、19歳の時に書いた短編でO・ヘンリー賞を受賞するなど、早くから才能が秀でていた。ゲイであることを公言し、毒舌と知性とユーモアで時代の寵児となったカポーティは、未完の小説を残してドラッグとアルコール漬けで急逝した。時に1984年、59歳の死だった。

 彼が亡くなった後、その生涯の謎を追おうとしたジャーナリスト、ジョージ・プリンプトンがいた。彼が残したインタビューテープが今、本作の主要な部分となって初公開される。

 1960年代にきらびやかな社交生活を送ったカポーティの、数々の映像を瞬きのように繋いでいき、当時のニュースやさまざまな記録映像を軽やかな音楽と共にMTVのように目まぐるしく見せていく手法は、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリーのようだ。もっとも、ムーアのような下品さや過剰なプロパガンダがあるわけではない。

 過去の映像とイーブス・バーノー監督が新たに撮り下ろしたインタビュー映像を交え、かつ効果映像(再現映像というべきか)も短くカットを割っていく手法で、見る者を飽きさせない。

 かつて2005年に伝記映画「カポーティ」が作られ、タイトルロールを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンアカデミー賞主演男優賞を受賞する熱演を見せた。その映画では、カポーティの名を不滅のものとした犯罪ノンフィクション小説『冷血』が書きあがる過程のカポーティの葛藤が描かれていた。それに対して、今作ではバーノー監督が「カポーティという『箱』を開けてみたかった」と述べている。その箱を開けるために、実に大勢の証言が取り入れられた。

 1966年にカポーティが開いた、伝説的な「黒と白の仮面舞踏会」の映像や、未完の遺作となりかつそのスキャンダラスな内容によって上流階級から放逐されることとなった『叶えられた祈り』がいかに衝撃的であったか、という証言は刮目に値する。

 上昇志向というものが地道に働き生きる人々と無縁なところで紡がれるとき、生きる幸せとはなんだろうと再帰的に考えさせられる皮肉な映画である。「上流階級」に生きる場を求めようとした作家の悲劇でもあろう。

 戦後の経済成長と通信革命の時代に生きて、小説を書くよりもテレビに出演するほうが快楽になってしまった作家のなれの果て、と言ってしまえばそれまでだが、天才が裡に抱える空虚を何で埋めようとしてどのような不安と焦燥を抱いてつぶれていったのか、謎を解く箱を覗き見たいみなさま、どうぞこちらへ。

  2020年劇場公開作。

2019
THE CAPOTE TAPES
アメリカ / イギリス B&W/C 98分
監督:イーブス・バーノー
製作:ローレンス・エルマン、イーブス・バーノー
製作総指揮:ニック・フレイザーほか
撮影:アントニオ・ロッシ
音楽:マイク・パット