※本作は8月に試写で見たものであるが、その後忙しくて自分のブログにはアップできないでいた。ようやくイスラエルとハマスの合意がそろったという段階であるが、まだ予断を許さない状況だ。平和が訪れることを願って、この映画を紹介する。まだ上映している劇場もあるようなので、未見の方はぜひ足を運んでほしい。
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「2023年10月7日、イスラム組織ハマスがイスラエルを襲撃し、1200人の死者と250人を拉致した」というテロップと共に始まる本作は、イスラエルのパレスチナ占領と暴力を告発するドキュメンタリーである。
それから2年近く経った今、ガザ地区へのイスラエルの報復攻撃によって、最新情報では6万人が亡くなっている。ガザは既に市街地の多くが廃墟と化し、餓死者も出ている。死者のうち2万人近くが子どもたちだ。国境なき医師団からは特に北部の凄惨な状況が報告されている。
本作の話に戻ろう。中東問題ジャーナリストの川上泰徳はガザに入ることができなかったため、2024年7月にパレスチナ自治区のうちヨルダン川西岸とイスラエルを取材した。本作はその際の取材記録である。もともと映画にするつもりではなく、取材メモとして撮影を始めたのだという。
パレスチナ自治区はその大半を占めるヨルダン川西岸地区と地中海に面した狭小な飛び地であるガザ地区に分かれており、イスラエルを間に挟んでいる。地図を見ればパレスチナに食い込んでイスラエルが建国されていることがよくわかる。
川上のカメラを通して次々と映し出されるヨルダン川西岸地区の様子は、不思議なぐらい明るく静かだ。世界遺産に登録されているヘブロン市内ではごく普通の街並みや市場の様子が映る一方で、町へと続く車道の途中にはコンクリートブロックが置かれていて、いつでも町を封鎖できるようになっている。
パレスチナはアラブ人の自治区のはずだが、実際にはイスラエルが軍事支配しており、あちらこちらにイスラエルの国旗がはためいている。
イスラエルは2002年からパレスチナとの国境沿いに壁を建設し、パレスチナを封鎖した。ベルリンの壁とも比類されるこの分離壁は、パレスチナの人々に大きな困難を強いている。
川上はアラビア語で「無人地帯」を表すマサーフェル・ヤッタという村にやってきた。文字通りの荒野であり、見渡す限りなだらかな丘陵地帯には灰色の大地が広がる。ここで羊を飼って暮らす人々がいることに驚くばかりだ。すぐそばではイスラエル軍の演習が行われているような土地なのだ。村長会会長が「演習は住民を追い出すための口実だ。住民が去った後は軍隊も撤退し、ユダヤ人が入植してくる」と証言している。
その通りか、それ以上に非道なことが近隣の村でも起きていて、住戸が重機で破壊され、家を失った人々がテントや洞窟で暮らしている。イスラエル軍による法的根拠のない強制撤去に訴訟で抵抗する村人たちだが、裁判所も味方ではない。
学校も違法建築だという口実で次々破壊されていく。ガザで見るような瓦礫の山となった大地が広がっている様子には、言葉もない。
川上は次に壁の内側、つまりイスラエルのエルサレムに入る。ここではハマスに捉えられている人質の解放を訴えるデモが行われている。数千人のユダヤ人たちは人質解放のための停戦を叫ぶが、彼らの眼にはアラブ人の悲惨は映らない。一方で、兵役を拒否する若者たちがいることが救いになる。兵役拒否・平和をとシュプレヒコールを上げる左派の若者たちのすぐ側で、兵役拒否を訴えるユダヤ教超正統派の黒づくめの人々もいて、なにやら不思議な光景が広がっている。拒否者たちは刑務所に収容されていくのだ。
川上はパレスチナ人を支援するイスラエル人のグループにも出会った。彼らは住居を失ったパレスチナ人に食糧を配給し、医療支援を行っている。人と人とのつながりで人道支援を行おうとする人々がいることが、かすかな希望なのだと思いたい。確かに思いたい。
問題はイスラエルの人々がガザの現状を知らされていないということであり、自分たちが加害者であることを認めない(認めたくない)ということだ、と川上は述べている。それは世界中で今広がっている不寛容と「自国ファースト」の思潮と軌を一にしていると筆者には思える。自国が常に被害者であり正義であると思いたがる人々がわが国にもどれほど増えていることだろう。以て他山の石とすべき一作である。
暴虐はガザのみで起きているのではない。この事実は映像でこそ確認してほしい。パレスチナの青い空も灰色の大地も子どもたちの可愛い笑顔も、そしてそれらを覆いつくす非道も。一日も早いガザ戦争の終結を願う人々に見てほしい。
(機関紙編集者クラブ「編集サービス」誌に掲載したものに追記)
2025
日本 Color 104分
監督:川上泰徳
