吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ボストン1947

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 1936年のベルリンオリンピックのマラソンで優勝した「日本人」選手・孫基禎(ソン・ギジョン)が表彰台の上で悔し気に立つ姿は印象深いものだ。彼の胸にある日章旗を当時の「東亜日報」は塗りつぶして写真報道した。その結果、記事を書いた記者は逮捕され、孫基禎も警察の監視下に置かれることとなる。わたしはその事実は知っていたが、解放後になって彼が韓国のマラソン監督になり、その教え子がボストンマラソンに出走していたことは知らなかった。この映画で描かれていることはほぼすべて知らないことばかりだった。

 なので、描かれていることのすべてが新鮮で興味をそそられた。解放後は飲んだくれの生活を送っていたソン・ギジョンが、ベルリンオリンピック銅メダルの南昇竜(ナム・スンリョン)と共にマラソンの指導者となり、多くの弟子を育てていくこととなる。その過程で、極貧の中で懸命に生きる若者ソ・ユンボクを見出す。ソ・ユンボクを厳しく指導する孫に対して、おおらかなナムはその指導ぶりをたしなめる。

 ソ・ユンボクは優勝を狙える位置につけるほどに成長していくが、予想外の波乱が彼らを待ち受けていた。まずは資金の問題。そしてアメリカでの身元保証人を立てねばならない問題など。

 この当時の韓国は米軍の軍政管理下に置かれ、独立国として認められていなかった。やっとの思いでアメリカまでたどり着いた一行はアメリカ人から数々の非道な仕打ちや差別に遭い、とりわけ民族主義者の孫には我慢ならないことが続出する。どうしても許せないのは胸に着ける国旗が星条旗だったこと。ベルリンオリンピックの屈辱が蘇る孫だった。

 というような、とにかくこの一行は本当にどうやってボストンまで行けたのだろう、どうやって出場したのかとハラハラさせられる展開。それと面白かったのは、当時の飛行機である。シートベルトもなく普通の籐椅子に腰掛けて小さな飛行機で太平洋を渡る場面など、時代考証が見事と感心した。

 そしてハイライトは最後のマラソン本番のシーン。追いつ追われつのデッドヒートが繰り返される。まったく下馬評に上がらなかったソ・ユンボクが先頭に出た瞬間の感動! 韓国でラジオ中継にかじりついて応援している人々とわたしも同一化してしまったよ。しかしそのユンボクにまたしても試練が!

 というような、最後まで目が離せない興奮のるつぼ。終わってみれば感動にしっかりひたっていた。

 しかしこれほどまでにナショナリズムを鼓舞する映画を今作ることの意味をつい考えてしまう。同じナショナリズムでも排外主義のそれと抵抗のそれは違うという考えかたもできるのだろうが、大国となった現在の韓国ではどのように受け止められるのだろう。わたしにとっては、知らない事実(一部変更あり)をたくさん知ることができて大変面白かったのだが、映画の出来としてはごく普通と思う。(レンタルDVD)

2023
1947 BOSTON
韓国  Color  108分
監督:カン・ジェギュ
脚本:イ・サンヒョン、ソン・グァンス
撮影:チェ・チャンミン
音楽:イ・ドンジュン
出演:ハ・ジョンウ、イム・シワン、ペ・ソンウ、パク・ウンビン、キム・サンホ