吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2018-01-01から1年間の記事一覧

悲しみに、こんにちは

父母を亡くした六歳のフリダは叔父夫妻に引き取られるために都会のバルセロナから田舎へと引っ越す。巻頭のこの場面でフリダは言葉もなく荷造りの箱を見つめ、黙って車に乗り込んでいく。その深い悲しみを目元に湛え、彼女はいつも何かに耐えているような表…

BPM ビート・パー・ミニット

長男Y太郎に薦められて、4月に見た映画。しかしこれは日本ではヒットしないし評価もされないだろうと思った作品。カンヌ映画祭グランプリ受賞作だけれど、万人が共感をもって受け止める感動作ではない。そもそも日本では、活動家を「プロ市民」と呼ぶネトウ…

菊とギロチン

大正デカダンの時代、関東大震災直後の混乱した関東地方に女相撲の一座がやってきた。それを見た若きアナキストたちのグループ「ギロチン社」の一行は女相撲の虜になり、彼女たちと行動を共にしようとする。大正時代末期の猥雑でエネルギーにあふれた人々の…

グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札

王室ものというのはある意味手堅くヒットが狙えるから映画にしやすいんだろう。とりわけグレース・ケリーのようなシンデレラ物語となった美しすぎる女優・王妃の物語なら当然、絵になります。ニコール・キッドマンはかなり雰囲気が似ているし、背が高くてス…

最高の花婿

フランスって多国籍多民族の移民国家なんだとつくづく思う。だからこういう映画も作れちゃう。 田舎の豪邸に住むクロードとマリーの夫婦には才能にあふれた美しい娘が4人いて、みなパリに住んでいる。「娘たちをパリなんかにやったからよ」とマリーがこぼし…

バーフバリ 王の凱旋<完全版>

さすがに長いわー。エンタメ的にはこれ以上ないという無茶苦茶なサービスぶりだけれど、英雄としてバーフバリを称えれば称えるほど、だんだん虚しさが募ってくる。製作者の意図を超えて立派な反戦映画になっているではないですか!(んなわけないか) 前作の…

告白小説、その結末

次回作が書けなくてスランプに陥る女性作家のもとに熱烈なファンを自称する美しい女性が現れた。彼女の名前は「ELLE(彼女)」。エルもまたライターだ。ただし、エルはゴーストライターで、他人の自伝を書いているのだという。いつのまにかすっかり作家…

空飛ぶタイヤ

見ごたえのある企業犯罪追及社会派作品。主人公の中小企業社長が正義のために闘う姿よりも、大企業の末端で出世を狙いながらうまく立ち回る一癖ある正義派のほうが魅力的だ。 物語のもとになった事件は三菱自動車工業のリコール隠しであることは言を俟たない…

バーフバリ 伝説誕生

出たっ! B級超大作!! 興奮のるつぼと爆笑の嵐。歌って踊って大戦争。 なんでこれを観たかというと、現在劇場上映中の続編の完全版を観たいから、その予習のため。思いっきりCGとワイヤーアクションを使い、スローモーションを多用してあり得ない映像体験…

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー

な、長い。何しろ登場人物が多いから、そのエピソード処理だけでもずいぶん時間がかかるのはしょうがない。で、お話は結構面白かったから長いけど退屈はしなかった。もう二週間以上前に見たのでまたしても細部はすっかり忘れたけど、エリザベス・オルセンの…

いつだってやめられる 7人の危ない教授たち

東京出張中に見た7作品の一つ。映画館で声をあげてこんなに笑ったのは久しぶりだよ。この続編を先に見たときには、前編を見なくてもだいたいわかるからえっか、と思ったが、やっぱり前作を見てないと面白み半減だわ! そうか、このパターンを踏襲するのね、…

0.5ミリ

ある事件をきっかけに仕事と住居を失った若き介護ヘルパーが、次々と老人をたぶらかして押しかけヘルパーになって食いつなぐというブラックコメディ。 後半にいくほどダレてきて、特に津川雅彦じいさんの独白は認知症老人の特徴を出すために何度も同じセリフ…

gifted/ギフテッド

また一人天才子役が現れた。前歯の抜けたなんともいえない愛らしい顔に、長い睫毛を震わせながらくちゃくちゃの顔で笑う、抱きしめたくなるようなマッケナちゃん! 天才子役が天才少女を演じる。これはもう地でそのまま天才という雰囲気が全身から蒸発しまく…

リュミエール!

映画の原型であるシネマトグラフを生み出したリュミエール兄弟が残した1422本の作品から108本を厳選して解説を加えたもの。これがまた面白いったら。こんなに古い、ほんと、120年も昔の映像を見て何が面白いのかと思われそうだが、解説も含めて極めて興味深…

リップヴァンウィンクルの花嫁

黒木華の魅力がほぼすべて。よくぞ彼女を主役に据えたものだ、お見事。あ、すべてではない。残りの魅力はなんといっても怪しげな綾野剛。彼が演じる正体不明の安室という何でも屋、物腰柔らかな善人そうな詐欺師、彼が物語全体を不思議なムードに陥れている…

遺体 明日への十日間

ちょうどこの映画を観ていた時期に大阪で地震が起きたのでちょっとタイムリーだな、と妙な縁を感じたのだが、この映画は今回の大阪の地震の比ではない被害を描いている。 東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県釜石市が舞台。 ただひたすら遺体と向き合う…

新感染 ファイナル・エクスプレス

数あるゾンビものの中でも出色の出来。走る列車の中でゾンビと闘うという究極のサバイバルぶりがサスペンスを盛り上げる。主人公はファイナンシャル・プランナーのソグ。小学生の娘を別居中の妻のもとに送り届けるために、ソウルから釜山行きの特急列車に乗…

ロープ/戦場の生命線

2月半ばに鑑賞。 1995年のバルカン半島を舞台に、戦争が終わった後も続く空しい戦後処理の活動をブラックユーモアたっぷりに描く怪作。どこかしらタノヴィッチ監督の「ノー・マンズ・ランド」に似た味わいがある。 「国境なき水と衛生管理団」って、なんの冗…

いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち

これは楽しい。三部作の第2作なので、第1作を見ていないことが返す返すも悔しいけれど、この第2作だけ見ても十分ストーリーは理解できる。仕事にあぶれた研究者たちが犯罪に手を染めて、その犯罪歴を帳消しにしてもらうために警察に協力する、というお話。ま…

アバウト・タイム ~愛おしい時間について~

ちょっと変わったタイムスリップもの。といっても、行けるのは過去だけで未来は無理。自分の経験がたどれるだけで、他人のは不可能なので過去に行ってヒトラーを暗殺できない。 で、何がいいかというと失敗を全部やりなおせるってことと、同じ本を何度も読め…

ゲティ家の身代金

大学院の授業の折に、INUE先生がヨーロピアナの解説をされていて、「ゲティ財団のおかげでヨーロピアナで日本の著作者を日本語で検索できる」とおっしゃった。その言葉聞いた瞬間に映画マニアの社会人院生IMNさんが目を輝かせて、「それはひょっとして『ゲテ…

セトウツミ

究極の脱力系コメディ。よくぞこんな作品を映画にしたもんだ。これ、お金払って劇場で見てたら怒るよね、ほんま。でも面白い。音楽がタンゴ、というところも人を食ったみたいで良い。 高校生が二人、暇を持て余して放課後の河原に座ってああでもないこうでも…

あの日 あの時 愛の記憶

アウシュヴィッツで出会ったポーランドの政治犯の男とドイツ系ユダヤ人の女。男はどういうわけか収容所内でカポのような役目を担っていたのか、ドイツ兵に賄賂をわたし、それなりの厚遇を得ることができていた。男女が別々に収容されているはずの収容所内で…

スリー・ビルボード

もうすぐビデオリリースされるので、ぜひおすすめの一作を。今年は映画豊作年で、ナンバーワンと思う作品がすでに4作もあるよ! うれしいねー。 娘をレイプされ殺された母親が、捜査が進展しないことに業を煮やして国道沿いに3枚の看板(ビルボード)を出し…

Re:LIFE~リライフ~

若くして大ヒット作を書き、アカデミー賞も受賞した脚本家が、その後15年も鳴かず飛ばずでついに田舎大学の脚本コースの教師になる、というお話。くたびれたやる気のない中年大学教員をヒュー・グラントがまさに適役!って感じで楽しく演じている。 主人公キ…

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~

1980年の光州事件を世界に向けて報道したドイツ人ジャーナリストを、ソウルから光州までの乗せて走ったタクシー運転手の実話を基にした作品。 光州蜂起が起きたとき、私は大学4回生で、ちょうど文学部学生大会の時期であった。光州蜂起を支持し韓国民主化運…

マルクス・エンゲルス

二人の出会いから「共産党宣言」が書かれるまでを描く、青年マルクスとエンゲルスの物語。今年が生誕200年になるのを記念してカール・マルクスを主人公に映画を作ってみました、というもの。ひょっとしてマルクスが主人公の映画って初めて見たかも。これまで…

光の旅人 K-PAX

長さをまったく感じさせない、隙のない演出。ストーリーでぐいぐい押していく異色のSFだ。CGなんて一切必要ない。 ある日突然ニューヨークの駅頭に現れた男は自分のことをK-PAX星人だと名乗る。精神病院に収容されて治療の対象となるが、その言動が常識を超…

ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~

2013年のボストン・マラソンで起きた爆弾テロ事件の被害者の「その後」を描く。同じ事件を描いた「パトリオット・デイ」が犯人を追う警官を主人公にしたサスペンスだったのに対して、こちらは事件そのものよりも、両脚を失った主人公がいかにして苦しみから…

蝶の眠り

韓国人監督が脚本を書き、日本でロケしたラブストーリー。ヒロインがアルツハイマー病を発症しているという設定は韓国映画「私の頭の中の消しゴム」と同じだが、こちらはヒロインの年齢が高く、すでに五十代になっている。主役の中山美穂はあまりにもスタイ…