吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

リュミエール!

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 映画の原型であるシネマトグラフを生み出したリュミエール兄弟が残した1422本の作品から108本を厳選して解説を加えたもの。これがまた面白いったら。こんなに古い、ほんと、120年も昔の映像を見て何が面白いのかと思われそうだが、解説も含めて極めて興味深い。ただし、うちのY太郎(27歳)にこの映画のことを教えたら、「そんなもん、大学の映画史の授業で繰り返し見せられたからもう飽きた」と言われてしまった。
 しかしこの映画は4Kデジタル修復されているため、いま撮ったと見まがうばかりの鮮明さだ。一見の価値あり。これを観ると、映画の本質が120年変わっていないことがよくわかる。すなわち、「誰も見たことがないものを見せる」「映画は驚き」「映画は娯楽」「映画はユーモア」というもの。フランスの各地の風景もそそられるし、わたしとしてはこんな面白いもの、見ないのは損としかいいようがない。
 世界で最初に撮られた映画は、工場の出口であった。一日の仕事を終えて工場から出てくる人々を写した。ただそれだけなのだが、当時の人にとっては目の玉が飛び出るような驚きであったろう。続いて劇場公開された、「駅に入ってくる汽車」に至っては大スペクタクルである。近づいてくる列車に恐れおののいて観客が座席から跳びのいて逃げ惑ったという伝説の、アレだ。それ以降に作られた数々の短編がみなストーリを持っているところが興味深い。当時のフィルムは50秒しか連続撮影できなかったので、50秒一話のオチをつけてあるということろがミソ。大阪人も真っ青の笑えるお話がいっぱいあるよ。 
 目の前で起きていることは一過性のものであり、再現不能な切実なものであったはずだ。それが映像として記録されるようになって以来、人々の「時間」に対する観念が変わった。それが映画の始まりだったのだ。わたしたちは、120年前のパリの繁華街を歩く今は亡き人々の姿を観ることができるし、その姿は永遠に焼き付けられ、固定される。何かしら哲学的な気分に襲われる映像体験だ。(レンタルDVD)

LUMIERE!
90分、フランス、2016
監督・脚本・ナレーション:ティエリー・フレモー
製作:ティエリー・フレモー、ベルトラン・タヴェルニエ