吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ロープ/戦場の生命線

 2月半ばに鑑賞。

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 1995年のバルカン半島を舞台に、戦争が終わった後も続く空しい戦後処理の活動をブラックユーモアたっぷりに描く怪作。どこかしらタノヴィッチ監督の「ノー・マンズ・ランド」に似た味わいがある。
 「国境なき水と衛生管理団」って、なんの冗談ですか、そのネーミング。思わず笑ってしまったけど、もちろん元ネタは国境なき医師団とかそのほかのNGO団体なのだろう。物語はそのNGO「水と衛生」職員の奮闘を描くわけだけれど、そもそも当該職員がベニチオ・デル・トロという時点で既に怪しい。案の定、彼のもとにやってくる監査係の美女が元恋人ということで、ベニチオおじさんがNGO活動の合間に女たらしをしていたことがいろいろと露呈する。このNGOに属する人々の国籍が多様で、多くのスタッフが紛争現地で献身的に活動していることがよくわかる。

 ところが、本作では彼ら彼女らの活動がほとんど無意味なぐらいに意味がなくてほんとに無意味でシジュポスの神話ぐらいに無意味で意味がない。ということを描いた作品。その無意味さぶりが素晴らしかった。いや、けなしているのではなく、これは戦争の無意味さを戦後になっても引きずることの空しさをとことん描いたという点で素晴らしい反戦映画だ。
 邦題の「ロープ」は昨今にない素晴らしい日本語タイトルと言える。確かに、たった一本のロープを求めて「国境なきなんたら団」は彷徨い続けるのだから。彼らの自動車がバルカン半島の山岳地帯をうねうねと走る姿を空撮でとらえた映像はアッバス・キアロスタミ監督のくねくね三部作を思い出させる。つまり、終わりなき徒労を描いた作品といえるわけだ。
 ベニチオ・デル・トロの相棒の初老の男がティム・ロビンスだと気づくのにだいぶ時間がかかった。久しぶりに見たわ、ティム・ロビンス。すっかり白髪になってしまっているではないの。でも目元は相変わらず可愛らしい。お薦め作です。

A PERFECT DAY
106分、スペイン、2015
製作・監督・脚本:フェルナンド・レオン・デ・アラノア、原作:パウラ・ファリアス、共同脚本:ディエゴ・ファリアス、音楽:アルナウ・バタレル
出演:ベニチオ・デル・トロティム・ロビンスルガ・キュリレンコ、メラニー・ティエリー、フェジャ・ストゥカン、セルジ・ロペス