吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ある天文学者の恋文

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 もう絶対にあのイタリアの小さな島に行きたい行きたい行きたい。と思わせるような素敵な舞台設定。風景の美しさに我を忘れる。そんな映像美が強く印象に残り、見終わって2か月が過ぎればもうストーリーの細部は一切忘れているし、結末はさっぱり思い出せない。
 美しき女子学生エイミーは老教授と恋愛関係にあり、深く寵愛される優秀な生徒である。エイミーはアルバイトとしてスタントウーマンを演じてもいるので、情緒たっぷりの恋愛映画なのに時折いきなりエイミーのスタントシーンが挿入されるため、驚かされる。そんないたずらたっぷりの演出でトルナトーレ監督は何が言いたかったのかな。老境に差し掛かった監督自身を投影しているかのように思える教授エドワードは、ジェレミー・アイアンズが相変わらずダンディで渋くてほれぼれする佇まいを見せて演じている。特に最後に後姿だけで語った愛の言葉は忘れがたい。
 この文章を書くためにもう一度また映像を見てしまった。二回目のほうがしみじみと感動する。一回目はエドワードの「死後も愛人を支配したい」という欲が鬱陶しく感じたのだが、二回目には彼の切ない愛、永遠への思いが見えて、思わず遠い空を見やってしまった。
 親子以上に年の離れた若い学生を熱愛する天文学者は、その哲学を愛するエイミーに語り続ける。そう、死後も彼女のもとに届き続ける「恋文」によって。死んだはずの教授からなぜ手紙やビデオレターや携帯メールが届くのか? ミステリアスな物語は舞台をイタリアの小島の別荘に移したりイギリスの町へと動いたり、街並みや風景の美しさだけでも観客を魅了する。決して華々しい世界遺産が映し出されるわけではないけれど、静かでむしろ陰気臭い空の色に落ち着いた心持ちが生まれる。
 これもまた男の身勝手を描いた映画には違いないが、その深い深い愛がいつまでも彼女を束縛するのではという杞憂はさて、ラストシーンによってどのように変わるだろう。
 大切な誰かを失ったことのある人が見たら切な過ぎていつまでも心に残る作品だろう。(U-NEXT)

LA CORRISPONDENZA
122分、イタリア、2016
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ、撮影:ファビオ・ザマリオン
音楽:エンニオ・モリコーネ

出演:ジェレミー・アイアンズオルガ・キュリレンコ、ショーナ・マクドナルド、パオロ・カラブレージ、アンナ・サヴァ、イリーナ・カラ