おなじみの「オズの魔法使い」の前史にあたる物語。ブロードウェイ・ミュージカルを原作に映画化された。歌も踊りも完璧に本物で、レベルの高さに圧倒される。
原作小説は1995年に書かれており、1900年発表の「オズの魔法使い」を題材にとりながらもまったく新しい作品として誕生した。さらにそれを元に舞台化され、今般さらに映画化されるにあたって、より説得力のある拡張が施されている。
物語は、「西の悪い魔女が死んだ!」と大喜びする市民たちの前に現れた南の善い魔女グリンダが、「実は悪い魔女とは大学の同級生だったの」と思い出話を語るところから始まる。
主人公は愛らしいグリンダと緑色の肌を持つエルファバ。グリンダを演じたアリアナ・グランデは、モナコ公妃になったグレース・ケリーを見本に髪や顔を作ったらしい。華奢な身体で上品に舞い歌う姿は、巻頭でこそ高慢ちきな意地悪娘のような振る舞いだったが、やがて気品を漂わせるようになる。
エルファバは呪われているかのような緑色の肌でこの世に誕生した。グリンダと同じ大学で魔法を学び、二人はルームメイトになる。見た目も性格も暗いエルファバはいじめの対象になり、周囲からバカにされている。演じたシンシア・エリヴォの歌唱力の素晴らしさにはため息が出るが、実年齢が30代後半なので大学生には見えないところが苦しい。
外見の美しさにこだわり、自分のファンを増やすことに余念がないグリンダは金持ちのお嬢様。薄っぺらな人間のように見えて、その実、エルファバと出会うことで変わっていく。一方のエルファバは隠れた自分の才能、つまり魔法の能力をグリンダに称賛され、学長に見出されてこの世界を支配するオズの魔法使いへの謁見が叶うことに。
後半はエルファバとグリンダの大冒険が始まる。とにかく派手、豪華、仕掛けだらけ、という映画館の大スクリーンで見るにふさわしい大作である。特筆すべきは、図書室で展開される群舞。回転する円形書架なんて世界中の誰も見たことのない物が見られるだけでも驚くしかない。ほかにも美術の素晴らしさと壮大さはめまいがするほどだ。
それだけではない。なにより忘れてならないのは、この作品には差別や偏見に対するアンチテーゼが込められていること。そして独裁者の嘘や圧制への抵抗が描かれていること。子ども向けと思われる1900年の「原作」をここまで政治的メタファーに満ちたものにしたのは、舞台版の原作小説グレゴリー・マグワイア 『ウィキッド 誰も知らない、もう一つのオズの物語』の力ではないかと推測する。原作もいつか読んでみたい。
