最近は本人よりも姉のエル・ファニングのほうをよくスクリーンで見かけるようになったダコタ・ファニングだが、子役から大人への過程であまりヒット作に恵まれなかったところ、本作で久しぶりに演技の上手さを見せてくれた。
ダコタが演じたのは自閉症の若い女性。少女なのかもう成人しているのか設定上の年齢はよくわからないが、ピュアな印象を受けるその瞳や表情からは、大人になり切れないもどかしさと肉親の愛を求める渇望があふれている。
両親を亡くし、たった一人の肉親となった姉とも離れて施設に暮らすウェンディは、日々をアルバイトと「スタートレック」の脚本を書くことに費やしていた。トレッキー(スタートレックのマニア)である彼女はトリビアルなクイズにもすべて即答できる驚異の知識を脳内に詰め込んでいた。それだけではなく、ストーリーを創造する力にも長けており、パラマウント映画社が公募する「スタートレック」新作脚本コンテストに応募することを決意した。
だが、やっと書き上げた500ページ近い「傑作」は、郵送していては募集期限に間に合わないことがわかった。サンフランシスコ郊外に住むウェンディは、パラマウントスタジオがあるロサンゼルスまで、原稿を抱えて旅立つことになる。バスの乗り方も知らないウェンディがたった一人でロスまでたどり着くことができるのか?! 期限まであと3日足らず。ウェンディの旅が始まった!
というコミカルな展開のだが、前半はテンポがよくなくて、物語が走りだすまで多少もたつく。とはいえ、いよいよウェンディが愛犬を連れた一人旅を始めたところからは、彼女に降りかかる様々なアクシデントから目が離せない。
さらに、物語はウェンディが書くスタートレックの「最後の航海日誌」との二重写しとなり、感情表現ができないスポックに自身を投影しているウェンディの切なさが観客にもしみじみ伝わる。
ウェンディの旅は災難に遭ったり誰かに助けられたり騙されたり、「よくぞここまで頑張れるね」と心から声援したくなるものだ。彼女は一人で頑張りぬくことを選んで、最後まであきらめない。「パラマウントスタジオへ」。その言葉が呪文のように彼女を駆り立てる。もうこうなったら、どうしても彼女の脚本でパラマウントには「スタートレック」次回作を作ってほしいわ! 当然にもこの作品はパラマウントの製作だと思い込んでいたら、違ったみたい。
脇を固めるトニ・コレットが、ウェンディを支えるケースワーカーという心温まる役をもらって好演。だが、スタートレックとスターウォーズの区別もつかないなんて、ちょっとやりすぎの設定かも。
STAND BY
93分、アメリカ、2017
監督:ベン・リューイン、原作・脚本:マイケル・ゴラムコ
出演:ダコタ・ファニング、トニ・コレット、アリス・イヴ