吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

モリコーネ 映画が恋した音楽家

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 ジュゼッペ・トルナトーレ監督のエンニオ愛に溢れた映画。とにかくトルナトーレはモリコーネを好きでたまらないのだろうと思わせる。彼の長編デビュー作以外の全監督作、つまり「ニューシネマ・パラダイス」以降のすべての作品の音楽担当はモリコーネであることからもよくわかろうというもの。

 なので、愛が詰まりすぎて本作はエンニオ・モリコーネ賛歌であり、絶賛しかしていなくて、いかにエンニオが天才かを語るための映画であり、それ以外の何物でもない。これは潔い。いや待てよ、なにかスキャンダルとかないのか? 批判すべき点もあるだろうに。もはやエンニオは神か! 

 でも確かにエンニオ・モリコーネの作品は多くの人に愛されているし、わたしも大好きだ。実はほとんど毎日のように繰り返し飽きもせず聞いている。この映画を見終わった後にはただちにAmazonプライムエンニオ・モリコーネの楽曲を改めて再生したし。まあ、そのくらいこの人の音楽は愛すべきものだと思える。

 ただ、この映画では登場する人物が多すぎて、そのうえ日本人には馴染みのない顔も多いため、誰が何を証言したのかがわからなくなって、途中で「えっとお、これ誰だっけ」と思う場面が頻出する。もはや我とわが身の記憶力になんの自信もないわたしにとっては、そこがつらかった(苦笑)。実に70人もの人が登場するらしい。それほど多かったという自覚もないから、もうわたしにとっては誰が何を証言したかもどうでもいいことになっている。

 作曲家としてのモリコーネは、クラシック音楽の高等教育を受けたにもかかわらず世俗の映画音楽を作曲する羽目になったことが、本人にとっては一種の屈辱であったようだ。しかし、それも数々の栄えある賞を受賞した後となっては笑い話のようなものかもしれない。

 で、モリコーネが手書きの楽譜を懸命に書いている場面を見て、「ああ、今やPCにやらせば採譜なんて簡単なのに!」と思ってしまうわたしはもう職人芸の尊さを冒涜する輩なのだろうかと罪の意識におののいてしまった。とにかく映画音楽を愛する人々にはぜひ見てほしい必見作。ご本人は2020年に天寿を全うされたので、幸せな人生だったのはないか。(レンタルDVD)

2022
ENNIO
イタリア  Color  157分
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
製作:ジャンニ・ルッソ、ガブリエーレ・コスタ
脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
撮影:ファビオ・ザマリオン、ジャンカルロ・レッジェーリ
編集:マッシモ・クアッリア、アナリサ・スキラッチ
出演:エンニオ・モリコーネクリント・イーストウッドクエンティン・タランティーノベルナルド・ベルトルッチハンス・ジマージョン・ウィリアムズジャンニ・モランディジョーン・バエズブルース・スプリングスティーンクインシー・ジョーンズジュゼッペ・トルナトーレ、カルロ・ヴェルドーネ、オリヴァー・ストーンマルコ・ベロッキオウォン・カーウァイ