最後のヒトラー暗殺計画。もちろん失敗したことは歴史の事実だから誰もが結末を知っているのに、緊迫感が漂うよい演出だ。ただし、なぜか俳優がイギリス人だらけで、アメリカ人トム・クルーズがドイツの貴族将校というのは解せない。写真を見たところ、確かに本人もハンサムだからトム・クルーズが演じても悪くはなかったのだろう。
すでにノルマンディ―上陸作戦が成功していた1944年7月に「ワルキューレ作戦」を使ったヒトラー暗殺とクーデター計画は練り上げられ、実行に移された。わたしはこれほど多くの関係者がいたとは知らなかったので、大いに驚いた。こんなにたくさんの反乱兵・反乱職員がいるようでは、ヒトラー政権は持たないのは理の当然。アフリカ戦線で傷つき、片目と片腕を失い、残った腕の指も3本しかなかったシュタウフェンベルク大佐がヒトラー爆殺の実行犯となる。彼は若くカリスマ性のある貴族であり、ナチスのユダヤ人差別や軍事行動を強く批判するようになっていた。ヒトラーに任せていてはドイツの被害が増えるばかりであり、国が亡ぶ、と。
この暗殺計画に賛同した中に何人もの貴族将校がいたことが目を引く。ナチスが労働者階級出身者を組織していたことと好対照だ。反乱側がヒトラーとヒムラーを同時に暗殺することにこだわっていたことも印象的で、「ヒトラーとヒムラーは狂人だ」というセリフも記憶に残る。
暗殺が計画され、実行に移され、事の成否が不明なまま軍や警察には矛盾する指令が次々と送られ、現場の兵士たちは右往左往し、反乱側も保身に走る者や優柔不断な者、血気にはやる者、といった乱れが展開する様子は危機感溢れる。しかし問題は、登場人物が多すぎてよくわからないこと。ケネス・ブラナーがなんで途中でいなくなったのかと思ったら人事異動だったとか、観客の側がいろいろと人物配置をしっかり頭に入れておかないとわかりにくい展開になっている。登場人物が多いからこそ有名な役者を配したのだろう。みな熱演・好演している。
わたしが非常に興味深く思ったことは、当時の通信設備・技術の実態であり、電話交換手、タイピスト、といった部署に働く大勢の女性たちの姿だ。時代考証がしっかりしているのであろう、リアルな描写が優れている。それだけに、セリフが全部英語だったのが残念だ。こういう映画を見ると改めてその背景や歴史を勉強・復習したくなる。(U-NEXT)
VALKYRIE
120分、アメリカ/ドイツ、2008
監督:ブライアン・シンガー、製作:ブライアン・シンガーほか、脚本:クリストファー・マッカリー、ネイサン・アレクサンダー、音楽:ジョン・オットマン
出演:トム・クルーズ、ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、トーマス・クレッチマン、テレンス・スタンプ