劇場未公開の地味な映画。
ほとんど起伏がなく、何も驚くべきことも起きない。淡々と過ぎていくだけのストーリーなのにとても気持ちよくつかまれていくのは、モーガン・フリーマンが落ち着いた低音を響かせながら当意即妙のセリフを発していくから。その厚みのある声で洒脱な会話が展開すると、ずっと聞いていたくなる。
して、ストーリーは。妻を亡くして創作意欲も喪失した元人気作家モンテは今やアルコール漬けになり、足も不自由になって車椅子に乗り、田舎の湖畔の町にやってきた。ひと夏だけの滞在でなんとか小説を書かそうとする周囲の思惑をよそに、いっこうに筆が進まないモンテだったが、隣家の三人の娘のうち、9歳の次女と特に仲良しになり、徐々に心を開いていく。娘たちの母親シャーロットも美しいし、離婚したばかりで少々ナイーブな雰囲気がいい感じ。
作家という設定だから、モンテの語るセリフがいちいちウィットに富んでいて、そのまま名言集が作れそうなぐらいによくできている。さすがはロブ・ライナーの作品だ。冒頭では皮肉屋の偏屈じじいだったのに、だんだんいい人になっていくところがなんだか可愛い。ついには隣家の美人マダムの夢を見てうっとりするなんて、少年のようだ。
不自由な一人暮らしなのに家の中がずいぶんきれいに整頓されているのは不自然だとか(わたしの部屋に比べたらなんという美しさ!)、リアリティに欠けるうらみはあるけれど、犬との会話や近所の人たちのつきあい、町の店のレジ係とのやりとりなど、ちょっとしたエピソードがとても面白くて丁寧に描かれているのもいい。
「小説家を見つけたら」とか「アバウト・シュミット」に似たお話で、これら2作に比べたら小粒かもしれないが、わたしにはとても心地のいい作品だった。この映画に惹かれるのは、モンテのような人と静かに知的な会話を楽しむ、ということに飢えているからだろう。
誰かわたしと月光の下でダンスを踊って!(^^)(レンタルDVD)
THE MAGIC OF BELLE ISLE
108分、アメリカ、2012
製作・監督: ロブ・ライナー、脚本: ガイ・トーマス、音楽: マーク・シェイマン
出演: モーガン・フリーマン、ヴァージニア・マドセン、マデリン・キャロル、キーナン・トンプソン、エマ・ファーマン