愉快痛快、音楽も軽快。実に気持ちよく、そしておいしそうな映画だった。役者も豪華で、こんな「ちょっとした話」なのにこの配役! 羨ましいです。製作・監督・主演のジョン・ファヴローの人徳かな?
で、そのジョン・ファブローはいかつい身体に似合わずたいへん器用な手先を見せてくれて、実際に彼が切っていると思われる包丁さばきが見事だ。これも見ていて実に気持ちよい。おそらく本人がものすごく楽しんでいるんだと思う。彼は「アイアンマン」をヒットさせた監督だけれど、ほんとうはこういう小物作品を撮りたかったんだろうね。
主役も張ってるファブローは、今回は有名レストランのシェフを演じる。彼はオーナーと衝突して、さらには料理評論家と喧嘩して店を首になる。このシーンで「レミーのおいしいレストラン」を思い出したよ、わたしは。料理人へのリスペクトがなく批判ばかりする評論家を厳しくやりこめたあのディズニーアニメを思い出した。この「シェフ」でもやっぱりSNSを使った酷評を好き放題言い散らかしているブロガー評論家がやり玉にあがるのである。
で、個人的に一番印象に残ったのは、ファブローの小学生の息子が大人に対して非常に失礼な態度をとった時に、ファブローが息子をたしなめるシーンだ。息子はボランティアで自分たちを助けてくれたラティーノ移民を馬鹿にした。その態度に怒ったファブローは息子を叱るときにもちろん暴力は使わないし、それどころか声を荒げて怒鳴ることもしない。ただ、息子にもわかるように怒りを抑えながらたしなめるのである。実に理知的だ。ものすごく感心したのに、その時のセリフを忘れてしまったよ~(アホ)。
レストランを解雇されたシェフのファブローが始めた屋台トラックは、息子を乗せて一路東海岸へ。このロードムービーも楽しくて、彼らが作るファーストフードも心がこもっていておいしそう。でもカロリー高そう。
もともと腕がいいのだから、屋台トラックでも売れる売れる売れる。大成功するのである。SNSにしてやられたファブローがSNSをうまく使って成功していく様もすかっとするし、予定調和の話だけれど、おいしそうな映画には目がないわたしには大満足。
この映画には働くことへのリスペクト、職人技への敬意、離婚家族の絆、といったさまざまな要素も詰め込まれていて、実はいろいろ考えさせられるのである。まあ、労働映画の一種といいってもいいでしょう。(レンタルDVD)