吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

パリよ、永遠に

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 すんでのところでヒトラーによってエッフェル塔ルーブル美術館ノートルダム寺院も破壊されてしまうところだったとは、まったく知らなかった。この史実は非常に興味深い。
 戦争によって犠牲になるのは人命だけではない。多くの文化財や美術品が失われていったのだ。戦火から文化財を守ろうとした人々の物語には「ミケランジェロ・プロジェクト」という傑作がある。「パリよ、永遠に」ではヒトラーの狂気の破壊からパリを救ったのがドイツの将校であったという事実が語られる。
 戦争映画でありながら戦闘シーンがほとんどなく、大部分が主役2人の会話なので、製作費がかかっていない作品ながら、役者がうまいと会話劇でもここまで緊迫感に満ちた素晴らしいものができるという見本のようだ。
 パリを廃墟から救うために、占領軍の本部となっているホテルに突然現れるのは、中立国スウェーデンの総領事ノルドリンク。対峙するのはドイツ軍パリ総司令官コルティッツ将軍だ。まもなくパリの街にしかけられた爆弾が爆破され、多くの犠牲者が生まれてしまうというまさにその緊迫した時に、ノルドリンクはなんとかコルティッツ将軍を翻意させようと説得を試みる。コルティッツとてパリの街を愛する文化人なのだが、彼にはヒトラーの命令に逆らうことができない事情があった。。。。
 二人の会話は説得のために押しに押すノルドリンクと、それを受けて頑なな態度を崩さないコルティッツとの押し返しとが手に汗握る展開を見せる。もともとが舞台劇であり、脚本が優れていて、ナポレオン三世の愛人の逸話を挟むというしゃれたセリフが効いている。83分という短さもよく、地味な作品ながら観客の目をくぎ付けにする魅力に満ちている。
 結果としてノートルダム寺院ルーブル美術館も無事だったことは誰もが知っているのだが、その裏にこのようなやりとりがあったとは。「この場所に爆薬を仕掛けました」と説明するドイツ兵が示す文化施設の図面を見た瞬間に、わたしは涙が出そうになった。あれが失われる! そう思うだけで冷や汗が出る。何百年も守り続けてきた文化財も一瞬で破壊されてしまうのだ。そんなことがあってはならない。そして、美しい町とともに失われる無意味な犠牲も絶対に避けねばならない。
 戦略上なんの意味もないのに、ヒトラーは無血降伏ではなくパリの破壊を命じた。大阪ではヒトラー並みの人間が首長に就いたために、文化が破壊されようとした。文化を築くのも人間ならば破壊するのも人間だ。どちらの側に着くのか、わたしは決意を新たにした。(U-NEXT)

DIPLOMATIE
83分、フランス/ドイツ、2014
監督:フォルカー・シュレンドルフ、原作戯曲:シリル・ジェリー、脚本:シリル・ジェリー,フォルカー・シュレンドルフ、音楽:ヨルク・レンベルク
出演:アンドレ・デュソリエ、ニエル・アレストリュプ、ブルクハルト・クラウスナー