これは震え上がるほど恐ろしい映画だ。戦争アクションものとしての迫力や没入感が高すぎる。原題の”CIVIL WAR”にはTHE が付かないから、南北戦争ではなく、単なる「内戦」という、”まだ名付けられていない戦争”という含意があるのだろう。
映画が始まった瞬間から既に戦争は始まっていて、しかも政府軍がかなり追い詰められていることがわかってくる。そもそもなぜ内戦をしているのか、反政府軍は何を主張しているのか、最後まで説明がなかった。そして反政府軍はカリフォルニア州とテキサス州の連合軍だというから不思議なものだ。かつての南北戦争の直前にこの二つの州はメキシコから独立してアメリカ合衆国になったという経緯が関係しているのだろうか?
わたしはほとんど事前の情報なく映画を見に行ったものだから、本作がジャーナリスト4人のロードムービーであったとは意外だった。彼らは大統領の独占インタビューを企図してニューヨークからワシントンDCに向かう。だが途中の道路が寸断されているので大回りをしなければならない。高名な戦場カメラマンであるリー・スミス(キルティン・ダンスト、ものすごくいい役者になっている)と彼女の同僚のジョエルに加えて、偶然拾った若い女性カメラマンのジェシーを連れて、さらには足手まといになりそうな老ジャーナリストのサミーと共にワシントンDCまでの1379kmの旅が始まった……!
リーに憧れている戦場カメラマン志望の若きジェシーは23歳という設定だが、十代に見えるぐらい幼い。演じたケイリー・スピーニーが愛らしくて、最近よく見ると思ったら、「エイリアン ロムルス」の主役だった。この映画は彼女の成長物語でもあり、リーとジェシーの師弟関係を描く物語でもある。
彼らの一行が進む先々で戦火の後の廃墟となった町や道路が映し出されて、寒々とした光景が広がる。そして憎悪の果てに人々が殺戮しあう場面がとても恐ろしい。いったいどっちが政府派なのか反乱軍側なのかも判然とせず、そもそも内戦の原因は大統領の独裁的強圧的な姿勢のせいだと思われるものの反乱軍も相当にえぐいので、悪いのはどちらかわからなくなる。物語が進むにつれて、どこにも正義はないと思わせる凍り付くような場面が続く。
そして圧巻はホワイトハウスへの突入戦である。戦場カメラマンが実際にあそこまで前線に出っ張ることがあるのだろうか、生きているのが不思議というぐらいにものすごい銃撃戦が繰り広げられる。
本作は巻頭から映像が凝っており、最後近くでは戦争アクションのさなかに美しい火の粉を散らしたりしてみせるなど、センスが抜群によい。ラストシーンの皮肉もその見せ方も監督の力量を見せつけてくれていた。
それにしてもあの大統領はどの大統領をモデルにしているのだろう。あえて大統領に名前を付けなかったところが渋い。この映画が荒唐無稽なエンタメ作として消費されることを祈るばかりだ。よもや近未来を見事に予知した作品だったなどと言われませんように……。
2024
CIVIL WAR
アメリカ / イギリス Color 109分
監督:アレックス・ガーランド
製作:アンドリュー・マクドナルドほか
脚本:アレックス・ガーランド
撮影:ロブ・ハーディ
音楽:ベン・ソーリズブリー、ジェフ・バーロウ
出演:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、ケイリー・スピーニー、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ソノヤ・ミズノ、ニック・オファーマン、ジェシー・プレモンス